2021 Fiscal Year Research-status Report
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18K12709
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
濱野 靖一郎 法政大学, ボアソナード記念現代法研究所, 研究員 (10774672)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 松平定信 / 鎖国 / 開国 / 天下の大勢 / 頼山陽 / 漢学的政治学 |
Outline of Annual Research Achievements |
松平定信の外交思想を検討する本研究課題の発展的かつ最大の成果として、「開国」から「終戦」へと至る、「天下の大勢」を軸とした日本政治史・思想史の著作を脱稿し、出版社の決定から校正作業へと至ったのが本年度の最大の研究実績である。昭和維新期に日本を戦争の泥沼へと追い込んだのは「バスに乗り遅れるな」の叫び声などではなく、「天下の大勢」を見定めたと思い込んだ人々の言説であった。「天下の大勢」が世界観・政策を正当化する言葉へと変貌していく過程を、定信を起点とした「鎖国祖法観」を解体して開国へと流れ込み、さらに「世界の大勢」と交わっていくための「議会」開設から「普選」を巡る言説を踏まえ、「終戦」まで整理した。『「天下の大勢」の政治思想史 開国から終戦への航跡』と題し、22年度の6月に筑摩選書として出版される予定である。 そもそも松平定信の外交思想を研究課題とした本研究の狙いは、そこが諸外国と徳川日本との関係の枠組みを明確化したから、と想定したためであった。また、定信が頼山陽『日本外史』を激賞し、山陽も定信を大政治家として評価していたことも大きい。『通議』を中心とした山陽の政治理論の影響を受けた者達による、政治史・思想史を幕末から近代へと検討する前史として、定信に狙いを定めていたのであった。 コロナ禍もあり、定信の思想それ自体を深めるための資料調査に出かけることが厳しくなっていた。本研究は定信の外交思想に焦点を絞ったものから、定信の思想を起点として「外国」や「世界の中の日本」という認識が如何に変化していったのか、という思想史的研究へと変化している。それは本研究以後の目標であった、日本近代の形成へと繋がっていく思想史的枠組みを構築する研究への発展ともいえよう。『「天下の大勢」の政治思想史』はその成果として位置づけており、想定より大きなものとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初は、開国から近代日本の形成に於ける頼山陽の思想の影響を研究するための、前史としてこの課題を位置づけていた。それは、日本学術振興会特別研究員PDでの課題、幕末維新期に於ける頼山陽の思想の影響を検討した際に、一度遡る必要を考えたからである。その時の課題は明治に至る前、江戸時代のものまでしか対象に出来なかった。 本課題は日本各地から定信の史料を調査し、外交を中心とした政治思想を整理して改めてそれ以後に結び付ける筈であったが、コロナ禍もあって史料調査に向かうことの難しさがあり、結果として定信の思想は入手できる範囲のものの整理に留まっているが、それがかえって幕末の開国から昭和までの「天下の大勢」を巡る政治的営為を深く検討する方向に研究をすすませ、結果として本研究の発展的課題であったものを整理するまで至った。局地的には進展しきれなかったものの、将来的な研究計画を踏まえれば想定以上の進展といえるだろう。
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Strategy for Future Research Activity |
「開国」を巡る通史的な成果を出すことは22年度の出版によって達成できる。とはいえ、定信個人についての研究としては、これまで発表できていない。22年度に外交を中心とした定信の政治思想について、学会にて発表する予定である。それと関連づけて定信の儒学認識についても22年度中に投稿論文の形までつくることを想定している。
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Causes of Carryover |
コロナ禍により調査旅行等もできず、図書購入のみで想定ほどの使用がなかった。また、次年度へと延長して著書をまとめた後、改めて論文を書くために費用を抑えておく必要があったためである。使用計画は図書購入を主に想定している。
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