2019 Fiscal Year Research-status Report
市場から見る再規制国家の形成:官僚のカルテル・マネジメントの実証研究
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18K12713
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Research Institution | Musashino University |
Principal Investigator |
深谷 健 武蔵野大学, 法学部, 准教授 (50737294)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 再規制 / レントシーキング / 規制ガバナンス / 共管規制 / 規制の量 / 小さな政府 / フィードバックメカニズム / 府省共同体 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究『市場から見る再規制国家の形成』は、市場化に伴う規制の「再」策定メカニズムに関する多角的な実証分析を行うものである。本年度は以下の作業を行った。 まず、どのようなセクターで規制が緩和・維持され、また強化されているのかについて、市場側のレントとあわせた実態把握を行った。ここでは、国際比較を通じて日本の規制とレントの変化の実態を定量的に示す分析を遂行し、先進諸国と同様に、日本においても、政府の縮小過程で全体的な規制量が逆に増加する傾向があることを確認した。あわせて、いずれのセクターにおいても、各国と同様の緩和傾向を示し、特段の逸脱は示していなかったこと、一方で、レントに関しては全体的な減少傾向にあるものの、全てのセクターにおいてこれが減少しているわけではない実態を確認した。この作業概要を『武蔵野法学』第11号(2019)に掲載した。 あわせて、「政策の後戻り(その例としての規制再構築)」と利益集団の関係を分析するための理論的検討を行った。政策改革のダイナミクスを考える上で、市場側の利益に留意したPatashnik(2008)の議論をもとに、日本における政策のフィードバックメカニズムを把握する分析フレームを提示した。改革の持続性を考えるためには、利益集団の改革への事前のコミットメントと既存集団内部の安定性に着目することが重要であることを確認している。 さらに、規制量の増加を行政活動との関係で議論する可能性を拓いた。特に、市場化に伴う効率化の追求が、逆に規制に関わる府省間の共管領域を増加させ、政府内部に過大な調整コストをかけている可能性を指摘し、この議論をEGPA(The European Group for Public Administration)で報告した。 これらの着眼と知見をもとに、引き続き本研究を進めていく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
現在までの進捗状況は、年度当初に予定した通りの進捗を見たわけではなかったが、一方で、「市場変化に規定される政策の「再」形成」に関する理論枠組みの整理、研究射程の確認、規制と市場に関するデータ収集、実証手法の確認など、研究の基礎付けを行うことができた。 これまでの蓄積を基礎に、(1)市場化に特化した実証研究、(2)市場化の政治的要素を考慮した実証研究を論文として公表するともに、(3)市場化と行政との連関を踏まえた研究を進めていくことが引き続きの課題となる。特に、2019年度に欧州での行政学会で報告した際に、規制の量的増加と行政負担の関係に関する研究が国際的にも関心を持たれ、引き続き進める示唆を得たことは、今後の展開を発展的に考える上で有益だった。今後も、実証的な知見に基づく多角的な研究を進めいければと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで、(1)再規制の量的増加、(2)政策改革持続への利益集団の制約、(3)市場化をめぐる行政負担、に関する3つの研究展開を見た。これらの知見をもとに、以下の研究を深める。 第1に、再規制の政策過程分析を進める。ここでは、「小さな政府」における規制量の増加メカニズムを明らかにするため、総務省『許認可等の統一的把握結果』をもとに、規制が強化された領域の特性を特定するとともに、逆に、届出など緩和傾向にあるセクターにおいて、市場統制のための代替手段がどのように活用されているのか(或はいないのか)を特定し、より細分化した多様な政府関与の実態に接近する。 第2に、政策改革のダイナミクスの実証分析を進める。「後戻り」等を含む政策改革の長期的効果を判断するには、その後の政治的持続性を見る必要がある。そこで、レントシーキングや市場の失敗に着眼する視点(Patashnik2008)を考慮しつつ、規制(経済的規制改革)・給付(福祉改革)・行政手法(政府の透明化等の公共ガバナンス改革)といった複数領域を素材とした政策改革の比較政策史研究を行う。この試みは、理論的に、日本の政策形成における正のフィードバックメカニズムの妥当性を検証することに繋がるものである。 第3に、市場化と行政負担の関係を深掘りする。まず、消費者志向の市場形成の実態を観察データ分析・サーベイ実験等をもとに実証し、市場化の短所を特定する。その上で、対応する規制強化をめぐる「府省共同体」間の調整メカニズムを、中央省庁再編後の規制改革手法や統治機構改革との関連に着目して解明する。具体的素材としては、革新と保護を問題とする「プラットフォーム規制」の政策過程を想定している。 以上を踏まえ、市場化(新自由主義型政策の展開)と政治化(民主的統制の強化)の狭間にある官僚制の市場統制の可能性とその限界を示すことが、本研究の最終目的である。
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Causes of Carryover |
今回、次年度使用が生じた理由は、(1)当初予定していた行政の市場化に関連する調査を、本年度に実施できなかったこととあわせて、(2)旅費・書籍購入等の必要な費用を、別の研究費で執行可能であったことによる。これを踏まえて、今後の使用計画として、以下の点を予定している。第1に、行政の市場化の進展とその弊害に関する実態を実証的に明らかにするために、関係者へのインタビュー調査やサーベイ実験等の複数の調査を実施できればと考えており、その準備を行う。第2に、2020年度夏以降に、海外の研究者との研究交流を促進するために、本研究テーマに関連した訪問調査を予定する。第3に、研究論文を海外英文査読誌に投稿するため、校正を含めたその準備作業を進める。第4に、研究室整備のために、HP等の充実・更新を予定している。
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Research Products
(6 results)