2018 Fiscal Year Research-status Report
Constructing the Theory of Epistemic Democracy: A Response to Anti-Democratic Arguments.
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18K12715
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
内田 智 早稲田大学, 政治経済学術院, その他(招聘研究員) (70755793)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 認知デモクラシー論 / 熟議デモクラシー論 / 現代政治理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年(平成30年)度は、当初の研究計画に従い、現在の認知デモクラシー論の理論動向を検討し、昨今注目されつつある一連の反民主的論議anti-democratic argumentsの特徴とその認知的視座の限定性を批判的に検討することを試みた。当初の研究計画にある通り、本年度の検討は本研究全体の基盤となる論争軸を構築するものである。検討の結果として、近年の認知デモクラシー論の全体的な動向は、デモクラシーが有する認知的価値epistemic valuesをめぐり次の二つの論点を中心として論争が展開されている状況として整理することができる。それはすなわち、①デモクラシーは専門家支配に比して愚鈍な多者の支配であるか否か(認知的望ましさepistemic desirability問題)、②認知的価値をデモクラシーに認めることはデモクラシーそれ自体の否認を導くか否か(反民主的含意anti-democratic implication問題)という二つの論点である。 本年度の研究成果は、まず、2018年5月に開催された2018年度政治思想学会研究大会(於:甲南大学)において研究報告「現代デモクラシー論における認知的多様性の意義――信頼、熟議、そして民主的理性――」として公表した。同報告に対しては、現代デモクラシー論の専門家をはじめとする多様な研究者から反応が寄せられ、活発な意見交換の機会を得ることができた。本年度後半では、学会報告での意見交換を通じて得られた知見をふまえ、上記二つの論点に関する考察をさらに深め、論文「現代デモクラシー論における熟議の認知的価値」として取りまとめ、政治思想学会の年報(査読誌)『政治思想研究』に投稿した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度(平成30年度)計画として設定していた認知デモクラシー論の萌芽的展開の要諦を明確化するという課題は、これまでの研究により達成できている。 とりわけ、現実のデモクラシー体制下における市民の認知能力に対して懐疑的・悲観的見方をとる反民主的論議が、実のところ人間の認知能力に関する限定的・恣意的な想定に暗黙裡に依拠しているという点を説得的に示すことに成功している。本年度の研究を通じて示したこととは、反民主的論議を展開する論者たちが、個人単独で自分を取り巻く社会的世界に対する誠実かつ慎重な分析を積み重ねていけば、政治的問題についても認知的改善とより正確な決定を導出することができるはずだ、というデカルト主義的な私的推論モデルを基礎とする想定をおいているという点である。反民主的論議はあたかも「より優れた知者」が確定・発見できるということを自明視することでデモクラシーに対する懐疑を提起し、少数知者支配を正当化しようと試みるが、その試みは極めて狭い私的推論モデルというその妥当性の疑わしい想定に依拠していると言わざるをえないと指摘できる。 本年度終了時点での研究は、反民主的論議に対するこうした批判的検討からさらに歩みを進めて、人間の認知活動としての理由づけreasoningの性質と機能について複数の異なる個人間で遂行される社会的な営為として捉える視座の有意性に関する検討にまで進んでいる。これにより、次年度(平成31年度)計画として設定していた「理由づけの論議理論」の分析と精緻化を進めるための足がかりを築くことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成31年度は、当初の計画に従い、「理由づけの論議理論 the Argumentative Theory of Reasoning」の分析と精緻化を通じて、人間が行う熟議の認知的「機能」が本来的に二人称的・社会的な役割であることの妥当かつ有意な論証を提示する。「理由づけの論議理論」は、進化心理学的観点から人間の認知活動の一つである理由づけ本来担う機能を解明することを試みる新たな理論的視座である。この視座に依拠するならば、人間の実践する理由づけがもつ「機能」は、一般に自明視されるような個人が単独に行う誠実な分析などではない。その本来的役割は「相対立する認知的に多様な人々の間での賛否をめぐる理由の往還(フィードバック・ループ)」、つまり、二人称的・社会的な機能にある。この点の解明を試みる「理由づけの論議理論」の視座を取入れ「賛否をめぐる理由の往還」として熟議を捉え直すことで、相異なる論拠argumentsの間での二人称関係における不合意の顕在化それ自体が「よりよき理由づけ」への認知的資源となることを明確にすることをめざす。 本年度計画において研究の焦点となる「理由づけの論議理論」は、近年国内外において顕著な発展をみせる隣接専門分野(社会認識論、行動経済学)の知見を政治理論における理由づけの機能の分析に応用することを試みる視座である。そのため本年度は、海外での調査研究を実施し、隣接分野の研究も含めた最新の知見の摂取、検討を進め、研究成果はを逐次、国内学会にとどまらず国際学会においても発信することを予定している。
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Research Products
(1 results)