2019 Fiscal Year Research-status Report
Constructing the Theory of Epistemic Democracy: A Response to Anti-Democratic Arguments.
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18K12715
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
内田 智 早稲田大学, 政治経済学術院, その他(招聘研究員) (70755793)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 認知デモクラシー論 / 熟議デモクラシー論 / 現代政治理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度(平成31年/令和元年)度は、昨年度までの研究成果を足掛かりとして、「理由づけの論議理論 the Argumentative Theory of Reasoning」の分析と精緻化を通じて、人間が行う熟議(deliberation)の認知的「機能」が本来的に二人称的・社会的な役割であることの妥当かつ有意な論証を提示することを試みた。 「理由づけの論議理論」は、進化心理学的観点から人間の認知活動の一つである理由づけ(reasoning)が本来担う機能を解明することを試みる新たな理論的視座である。この視座に依拠するならば、人間が行う理由づけがもつ「機能」は、個人が単独で行う誠実な分析などではない。その本来的な役割は、「相対立する認知的に多様な人々のあいだでなされる賛否をめぐる理由の往還」にある。 本年度の研究は、こうした「理由づけの論議理論」の視座を取り入れ、「賛否をめぐる理由の往還」として熟議を捉え直すことによって、相異なる論拠(arguments)の間での二人称関係における不合意の顕在化それ自体が「よりよき理由づけ」に向けた認知的資源となることを明確にした。 本年度の研究成果は、論文「現代デモクラシー論における熟議の認知的価値――政治における「理由づけ」の機能とその意義をめぐる再検討」として取りまとめ、政治思想学会の年報(査読誌)『政治思想研究』に投稿した。同論文は厳正な査読を経て掲載が認められ、さらにその成果は高く評価され、「政治思想学会研究奨励賞」の受賞に結実した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度(平成31年/令和元年)計画として設定していた、「理由づけの論議理論」の分析と精緻化を進め、熟議の本来的役割をその「機能」の観点から論証するという課題は、これまでの研究により達成できている。 ただし、国内学会のみならず国際学会においても研究成果を発信するという計画については、新型コロナウイルス感染症の世界的拡大にともなう異例の事態を受けてリスケジュールを余儀なくされており、現時点では見通しが立っていない。 とはいえ、研究最終年度である令和2年度計画として設定していた、熟議手続きにおける認知的多様性(epistemic diversity)の独自の役割、ならびに価値多元性と不確実性を所与とする「政治的領域」における「知」の特質を解明するという課題を着実に遂行するための基盤は、これまでの研究により固められている。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度である令和2年度は、当初の計画に従い、本研究全体の狙いである「民主政は愚かな多者支配などではなく、他の政体と比べて独自の認知的価値と機能を生成する蓋然性が最も高い政治制度である」ことを論証することをめざす。 この狙いを達成するために、以下二点の課題への取り組みを目下進めている。まず、①政治という領域において価値多元性と不確実性が不可避であることを正面から受け止めつつ、政治における「知」の特質を詳らかにする。加えて、②「多様性は専門能力に優る Diversity Trumps Ability」定理の民主政に対する含意を詳らかにし、認知的多様性を熟議手続きのうちで包摂的かつ継続的に確保することこそが「よりよき民主的帰結」の生成に向けた要諦となることの論拠を示す。 これら二点の論証により、熟議を少数知者支配(epistocracy)と結びつける構想を退けつつ、包摂的・継続的・相互的な理由の往還としての熟議手続きを不可避に備える民主政でしか生成されえない認知的価値と機能の根拠を明示する。これによって、民主政が備える認知的価値と機能を包括的に解明し、反民主的論議に対して説得力ある応答を提示するという本研究全体の狙いを達成する予定である。
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Causes of Carryover |
当初の計画では本年度に予定していた海外での調査研究を次年度に繰り越したため、予算執行計画を変更した。本年度の予算執行においては、主に次年度に執行を予定していたその他の整備費用を前倒ししたが、これにともなって差額が発生している。 次年度分の使用計画としては、当初の計画通り、海外での学会報告ならびに論文投稿を予定していたが、コロナ・パンデミックにともない計画を変更する予定である。主にオンラインでの学会報告などに向けた設備費用を中心に当初の計画が遺漏なく達成できるよう使用する予定である。
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Research Products
(2 results)