2020 Fiscal Year Research-status Report
Constructing the Theory of Epistemic Democracy: A Response to Anti-Democratic Arguments.
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18K12715
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
内田 智 早稲田大学, 政治経済学術院, その他(招聘研究員) (70755793)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 認知デモクラシー論 / 熟議デモクラシー論 / 現代政治理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度(令和2年度)は、新型コロナ感染症問題により、大幅な研究計画の見直しを余儀なくされた。とりわけ、4月から10月まではほぼ研究外の膨大な業務への対応に忙殺されたこともあり、研究活動それ自体がほぼ停止することとなり、研究計画の進捗は大幅に遅れる結果となった。そのような状況下ではあったものの、本課題の成果として『平等の哲学入門』(社会評論社)を共著者として出版したほか、附記ではあるが、本課題以外の論考としても『思想(特集グローバル・ジャスティス)』第1155号(岩波書店、2020年7月)を上梓することができた。 とりわけ『平等の哲学入門』所収の拙稿「グローバリゼーションと平等」は、「少数知者支配(epistocracy)に対するデモクラシーの優位」を解明しようと試みる本課題にとって、デモクラシーの成員資格に関する統制原理をめぐる「デモス境界線論争」の真の問題を批判的に問い直したという意味で重要な成果の一部である。この成果をふまえ、デモクラシーの成員資格問題をグローバル正義論の位相に再定位した上で、そうした正義論とそれに根差した正統性論の土台の上に「認知デモクラシー論」は検討されなければならないことが明らかとなった。すなわち、デモクラシーの認知的価値をめぐる理論的根拠を明らかとするためにも、「デモクラシーをめぐる正義と正統性」という問いは並列的に解明されなければならない。この点に関する解明の第一歩となった本成果は、本研究課題を推進するにあたり重要な知見を形成した。 本来、本研究課題は令和2年度が最終年度となる予定であった。だが周知の通り、新型コロナ感染症拡大に伴い、実施期間を1年延長する。この期間を用いて、本研究課題全体としての狙いである「デモクラシーが備える認知的価値と機能の包括的な解明」を完遂することとしたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナ感染症拡大の多大な影響を受けたため、研究の進捗状況は当初の研究計画よりも遅滞を余儀なくなされている。 この研究計画の遅延を取り戻すべく、本課題の研究期間を一年延長の上、最終年度の研究計画として設定した以下の問いを探究し、成果として公開することに努めたいと考えている。すなわち、①:熟議手続きにおける認知的多様性(epistemic diversity)の独自の役割は何か?、ならびに②:価値多元性と不確実性を与件とする「政治的領域」における「知」の特質とは何か? これらの問いを鋭意、探究し解明を図っていく予定である。 とりわけ、今般のコロナ感染症拡大はより一層「科学的な知」と「政治的な知」の間にある懸隔を露骨に示している。これら社会情勢も踏まえつつ、「科学的な知」では決して汲みつくすことのできない領域としての、通俗的な意味解釈を超えた「政治的な知」の所在を明らかにしたいと考えている。少なくとも、それらの知は決して二律背反的な相反関係にはないだろう。だが、間違いなく「緊張関係」をはらんでいることは論を俟たない。これらの「知」が有する特質の要諦をつかみ、認知デモクラシー論を専門とする者たちが示そうと試みる「デモクラシーこそが、結局のところ、最善のパフォーマンスをもたらすと推定される」という主張の含意と特長を詳らかにしたい。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度である令和3年度は、本研究全体の狙いである「民主政は愚かな多者支配などではなく、他の政体と比べて独自の認知的価値と機能を生成する蓋然性が最も高い政治制度である」ことを論証することをめざす。 この狙いの下、まず、①価値多元性と不確実性を不可避の要素として伴う「政治」における「知」は、二人称的な認知的学習過程での継続的な精査と淘汰を通じて向上しうる特性を有することを論証する。加えて、②「多様性は能力に優る Diversity Trumps Ability」定理のデモクラシーに対する含意を詳らかにすることを通じて、認知的多様性Epistemic Diversityを熟議手続きの内に包摂的かつ継続的に確保することこそが「よりよき民主的帰結」の生成に向けた要諦となることの論拠を提示する。 これら2点の論証により、民主政が備える認知的価値と機能を包括的に解明し、反民主的論議に対して説得力ある応答を提示することを狙いとする本研究課題を完遂する。 なお、本年度の研究成果は、オンラインでの参加も視野に入れて、国内学会のみならず国際学会においても逐次発信する予定であるほか、何らかの媒体へ最終成果を公開できるよう方策を検討している。
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Causes of Carryover |
2020年度(令和2年度)は、新型コロナ感染症拡大に伴う多大な影響により、研究遂行に障碍が生じた。特に、4月から10月までは、研究以外の業務に忙殺されてしまったため、本研究課題にかかわるものも含めた一切の研究活動を停止せざるを得ない状況であった。これに伴い、本年度の予算執行は当初計画からの大幅な変更を余儀なくされ、差額が発生している。 研究期間最終年度にあたる次年度分の使用計画としては、主として本研究課題の成果の作成に重点を置いて予算を執行する予定である。具体的には、①:さらなる最新の研究動向を摂取するための研究書購入費用、②:国内学会・国際学会における学会参加ならびに報告、および成果物の出版を中心とした何らかの媒体への公開に向けた準備作業に向けたオンライン設備拡充のための費用、③:学術誌への論文投稿に要する経費に充てる。 これらの予算執行を通じて、本研究課題の狙いである「デモクラシーの認知的価値と昨日の包括的な解明」を完遂し、「科学的な知」とは一線を画する「政治的な知」の特質と特長を詳らかとしたい。
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Research Products
(1 results)