2022 Fiscal Year Research-status Report
Problems of Democratic Consolidation in the American Deep South, 1976-1980
Project/Area Number |
18K12717
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
平松 彩子 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (00803884)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 投票権法 / 民主化 / 連邦司法省公民権局 / 有権者登録 |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度には、前年に引き続き、アメリカ合衆国の南部地域における民主化の過程を明らかにするため、連邦司法省公民権局による1965年投票権法の執行について研究調査と論文の執筆を進めた。特に、なぜ同法の執行に偏りが生じたのかについて明らかにした。同法第6条では司法長官の行政的な判断で有権者登録官の派遣を実施すると定めたが、1957年から1965年までの間にすでに司法省が行なっていた投票権侵害に関する訴訟や捜査の活動実績があった郡では登録官の派遣が積極的に行われたのに比べて、訴訟活動を行なってこなかった対象州や地域においては登録官の派遣がほとんどなかった。派遣対象となる郡の選定基準は、同法の規定にあるような現地の有権者登録率や住人からの苦情に沿っていたというよりは、司法省公民権局の内在的な経路依存性によって決まっていたようである。1965年投票権法は、それ以前の公民権法の弱点を補った画期的な法律として一般的に理解されているが、司法省は法の執行の段階で多分に慎重、かつ限定的に登録官派遣を行なったのであった。この結果、すでに郡や州政府あるいは個人に対する訴訟を活発に行なっていたアラバマ、ミシシッピー、ルイジアナの三州においては有権者登録官の派遣が迅速かつある程度広い範囲の郡で行われたが、残りの対象州の一部地域では公民権活動家の有権者登録活動に対する雇い止めや爆破事件などが前三州と同様に起きていたにもかかわらず、派遣はほとんど行われなかった。この偏りは、各州における知事選挙や州民主党の改革過程にも影響を残したと考えられる。 以上の知見は、研究者が過年度までに行なった調査に加え、2022年12月初めにプリンストン大学を訪問し所蔵されている個人文書を精査した研究から明らかになった。空間情報ソフトウェアを用いて独自の地図資料として作成し、英語論文として公刊に向けて準備を行なった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新型コロナウィルス流行による渡航規制が緩和されたのを機に、2022年度には渡米して資料調査を再開できたことは、それまでの2年半の行動制限の時期と比較して、大きな進展であった。また所属する研究機関の他部局が学内構成員に対してアクセス権を提供している空間情報ソフトウェアを利用して、アーカイブ調査から得た知見を地図という形で可視化させられるようになったことも研究の進捗に大きく貢献しており、利用の機会を得ていることに深く感謝している。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度は本研究課題の最終年度であり、成果の公表を急ぎたい。まず2021-22年度に主に進めた司法省公民権局の投票権法の執行に関する研究を単体の英語論文として投稿する。同様の内容を日本比較政治学会の2023年度研究大会において報告する予定である。このほか、この研究の前提となっている深南部地域における州民主党の規則改革過程と、南部州を基盤とする大統領候補の出馬、また民主党の統合と全国化について、前2年間で行なった研究と接合させた上で、研究図書としての公刊を進める。
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Causes of Carryover |
2021年度までに新型コロナウィルス感染症の流行により、渡米調査や学会報告の計画を中止せざるを得なかったり、国内学会への対面参加の予定がオンライン実施に切り替わったことなどにより、旅費の予算枠に大幅な未執行額が生じた。2022年度には渡米による調査を再開し、旅費を支出したが、前年度までの余剰分を使い切るまでに至らなかった。以上が次年度使用額が生じた理由である。 2023年度には旅費のほか、人件費での支出も見込まれるため、これまでに使えなかった予算を執行することになる見込みである。
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