2019 Fiscal Year Research-status Report
国際裁判に対する世論へのメディア報道の影響:多国間サーベイ実験による実証研究
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18K12722
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
松村 尚子 神戸大学, 法学研究科, 准教授 (20778500)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 国際政治 / サーベイ実験 / 世論 / メディア報道 / 司法的紛争処理 / 国際裁判 / 貿易紛争 / 投資紛争 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、国際機関による仲裁・裁判についての新聞報道の特徴を定量的に明らかにするとともに、オンラインサーベイ実験を用いて、報道の在り方が国際裁判の利用に対する世論に与える影響を分析することである。令和1年度の主な成果は、次の2点である。 第一に、国際裁判に関する新聞報道のデータ収集と記述的な分析を終えた。具体的には、貿易と投資の2つの分野に関する裁判について、日本・米国・インドの代表的な新聞の記事を収集した。この3か国は、貿易・投資紛争の解決に裁判を頻繁に利用している国である。1990年代から2020年3月までの新聞記事(日本-朝日新聞と読売新聞、米国-The New York TimesとThe Washington Post、インド-8つの全国紙)を含む。体系的かつ効率的に作業を進めるために、LexisNexisなどのオンラインデータソースから裁判に関連するキーワードを使って該当する記事を自動的に収集した上で、ヒューマンコーディングを行った。分析の結果、貿易・投資ともに、自国が被告である裁判は原告である裁判よりも多く報道されることが確認された。この傾向は、3か国全てについて観察された。理論的な予測通り、報道には「負のバイアス」が存在することが明らかになった。 第二に、前年度末に行った貿易紛争に関するサーベイ実験(N=約1500人、期間2018年10月)の結果をまとめて、国内外の学会で報告するとともに、学術誌への投稿に向けた準備を進めた。学会報告では、研究テーマの重要性について高評価を受けたものの、実験デザインについて多くの改善点を指摘された。その為、今年度は、実験シナリオや設問を再検討し、精度を上げることに力を注いだ。貿易紛争に関するサーベイ実験の追試と投資・領土紛争に関する新しい実験は、来年度に実施する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度は、日本・米国・インドの3か国が当事国となる、貿易紛争と投資紛争の国際裁判について、新聞報道のデータ収集を完了することが出来た。記事の量が多いことから、当該紛争と裁判に関連するキーワードを使って記事を自動的に絞りこんだ上でヒューマンコーディングを行う方法に切り替えたことで、効率的に作業を進めることが出来た。領土紛争に関する新聞記事については、実際に裁判に至ったケースが少なく勝敗にもバリエーションが少ないため、報道傾向の分析は行わないこととし、サーベイ実験のみ行うことを決めた。 サーベイ実験については、今年度中に新しい実験を行うことが出来なかった。理由は2つある。まず、前年度に行った貿易紛争についての実験の結果を学会で報告する過程で、リサーチデザイン(被験者への情報刺激の見せ方)について多くの指摘を受けたためである。そこで、情報刺激や提示の仕方を再検討するために時間が必要であった。次に、インド人を被験者とする実験に関して、サーベイ会社を選定するのに時間を要したためである。 以上を総合して、「(3)やや遅れている」と判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までの到達度で述べた点に触れつつ、今後の研究推進方策等について述べる。 第一に、投資紛争と領土紛争を事例としたサーベイ実験を行う。国際裁判に関する報道が世論に与える影響が、紛争領域によって異なるのかを検討することが目的である。 第二に、実験の実施と並行して、国際裁判の新聞報道のデータについてさらに分析を進める。具体的には、報道傾向のバイアスだけではなく、記事の論調や内容を分析したい。具体的には、量的テキスト分析の手法(トピックモデルや感情分析)を用いることを考えている。 第三に、以上のサーベイ実験の結果を、国内外の学会で報告する予定である。その他、学会報告論文に加筆修正を加えて、査読付きの英文学術誌に投稿することに力を注ぐ。
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Causes of Carryover |
当初、今年度中に予定していた実験の実施を見送ったためである。次年度の実験に支出する予定である。
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