2019 Fiscal Year Research-status Report
Reinvigorating Liberal Internationalism-Legacy of Woodrow Wilson Revisited
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18K12725
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Research Institution | Takasaki City University of Economics |
Principal Investigator |
三牧 聖子 高崎経済大学, 経済学部, 准教授 (60579019)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | アメリカ外交 / 国際主義 / 国際連盟 / 国際協調 / リベラリズム / 世界秩序 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、「ウィルソン主義(Wilsonianism)」という形で、漠然とした理念型として参照される傾向にあったウッドロー・ウィルソンの外交や、それを裏付けた政治思想について、その実像を明らかにすることにある。
2019年度は、2020年に刊行予定のウィルソンに関する単著の執筆とともに、「ウィルソン外交と日本」をテーマに研究を進めた。2019年5月、ウィルソンと同時代に日本外交に携わった安達峰一郎の未刊行資料を『世界万国の平和を期して-安達峰一郎著作選』(柳原正治編、東京大学出版会、2019年)へとまとめ、「解題:安達峰一郎の国際協調外交-新時代の「国益」の模索」(同pp. 375-399)を執筆することができた。安達峰一郎は、駐メキシコ公使として、ウィルソン政権の度重なるメキシコへの軍事介入を目撃した。そうした体験のもと、第一次世界大戦後のパリ講和会議におけるウィルソンのイニシアティブにも、懐疑の目を向けた。その上で、安達はパリ講和会議の結果創設された国際連盟に国際協調の理想を託し、その枠組み内で日本の国益を追求すべきだと考え、日本代表として連盟を通じた国際協調外交に従事した。
従来、ウィルソン外交とそれに対峙した日本外交は、「理想主義」と「現実主義」という構図で捉えられてきたが、安達の国際連盟外交やそれを裏付けた思想は、こうした二項対立的な図式に根本的な再考を迫るものである。単著には、安達のような他国の政治家や知識人がみたウィルソンやその評価も盛り込み、理想主義の政治家と美化される傾向にあったウィルソンの実像により迫っていきたいと考えている。その準備が十分にできた年度であったと考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度春休みに予定していたウィルソンに関する一次資料の収集や、国際学会への参加は、新型コロナの流行によって阻まれてしまった。その点については次年度以降、流行が収束してからなんとか挽回していきたい。
その代わりに、2020年にちくま書房から刊行予定の単著の執筆を進めることができた。2019年が国際連盟創設100周年であったこともあり、ウィルソンや国際連盟関係の研究書や研究論文が多く上梓されたが、その収集・分析も精力的に行うことができた。また、これまでイギリスとアメリカの思想家を中心に編まれてきたリベラリズムの思想史に大きな挑戦を突きつけるHelena Rosenblatt, Lost History of Liberalism (Princeton University)の翻訳作業を進め、その作業を通じて、リベラリズムの思想家としてのウィルソンを、トランス・アトランティックな思想史の文脈に位置付けることができた。ウィルソンは大統領として、第一次世界大戦の戦時指導を担い、ドイツとの戦争を、民主主義の防衛という観点から正当化した。しかし、思想家としてのウィルソンは、ジョンズホプキンス大学において指導を受けた経済学者リチャード・イーリーなどの影響のもと、当時においては「新しい」リベラリズムの先駆者とみなされていたドイツにおける社会政策やそれに思想的な裏付けを与えたドイツ知識人たちに大きな影響を受けていた。「現代リベラリズムの父」とも称されるウィルソンの核となる思想について、より多面的な絵図を描くための準備ができたと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
新型コロナの流行の収束状況をみながらではあるが、ウィルソンに関する一次資料の収集に努めたい。また、米国大統領選挙の年でもあり、改めてウィルソン外交の今日的な意義を考え、著作、あるいは時事的な論稿や講演として発表していきたい。コロナ危機を通じて、アメリカはいよいよ内向きになっている。トランプ大統領は、「中国寄り」とみなしたWHOへの拠出金の停止を発表。国際保健の分野でリーダーシップをとろうとする姿勢すら見せていない。では民主党に大統領が交代すれば、アメリカ外交の国際主義は復活するのかというと、その点も不確かである。大統領選の争点は、経済の立て直し、今回のコロナを通じて改めて痛感されることになった医療の立て直し、サンダース元民主党大統領が掲げてきた国民皆保険といった、内政問題に終始ししそうな見通しである。歴史的にアメリカが「孤立主義」にひきこもろうとしたとき、常にウィルソン主義の伝統がアメリカ外交の本流として呼び起こされ続けてきたが、今回はそうした声はかぼそいものとなっている。アメリカの内向き傾向がいよいよ強力かつ持続的な趨勢になりつつあるいま、ウィルソンのは国際主義外交はどのような意義を持ちうるのか、もはや国際協調への構想力を人々に与えるものではなくなり、その役割を終えたのか。こうした今日的な意義についても考察を深めていきたい。
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Causes of Carryover |
新型コロナの流行により、春休みを利用して行う予定であった資料収集、学会報告がすべてキャンセルとなったため。
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