2021 Fiscal Year Research-status Report
Reinvigorating Liberal Internationalism-Legacy of Woodrow Wilson Revisited
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18K12725
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Research Institution | Takasaki City University of Economics |
Principal Investigator |
三牧 聖子 高崎経済大学, 経済学部, 准教授 (60579019)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 国際主義 / 国際秩序 / リベラリズム / 介入 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度から続き、新型コロナ感染の蔓延により、資料調査のための海外渡航はかなわず、研究計画の変更および研究期間の延期が必要とされた。しかし、研究計画の変更により、柔軟にこの予期せぬ事態にも対応できたと考える。
2020年のジョージ・フロイド氏の殺害を契機に全米に広がっていったBlack Lives Matter運動を契機に、「リベラリスト」「理想主義者」の代名詞とともに語られてきたウィルソンの人種差別的な側面に改めて光があてられ、ウィルソン像は根本的に書き換えられようとしている。今年度は、こうした現代の米国の政治・社会状況を取り込みながら、ウィルソンに関する単著の執筆を進めることができた。
さらに今年度末には、ウィルソン外交に関する再評価・再解釈を促す重大な出来事が起こった。2022年2月ロシアはウクライナに対する軍事侵攻に踏み切った。戦闘ではウクライナ市民を巻き込む無差別攻撃も広く行われ、ロシアは核兵器の使用も辞さない姿勢すら見せている。大国による公然たる現状変更の試みを前に、非介入主義を鮮明にしてきたバイデン政権は岐路に立たされている。「世界の民主主義を守る」(ウッドロー・ウィルソン)ための積極的な介入か、「米国第一」の継続か、あるいはこのいずれでもない道か。ウィルソン外交の再検討を通じ、それが従来強調されてきたような、国際主義的な側面のみならず、単独行動主義的な側面、孤立主義的な側面を併せ持つものであったことを明らかにすることは、現在・今後の米国外交を理解・展望する上でも重要である。今年度は、こうしたウィルソン外交の現代的な意義についても理解を深めることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度から続き、新型コロナ感染の蔓延により、資料調査のための海外渡航はかなわず、研究計画の変更および研究期間の延期が必要とされた。しかし、研究計画の変更により、柔軟にこの予期せぬ事態にも対応できたと考える。
本年度は、後の時代に現実主義者によって「法律家的・道徳家的アプローチ」と揶揄されることになる、20世紀前半の米国外交に埋め込まれた権力性・帝国性を析出した"Law Against Empire, or Law for Empire?ーAmerican Imagination and the International Legal Order in the Twentieth Century" をThe Journal of Imperial and Commonwealth Historyに掲載することができた。確かにこの時代の米国外交は、国際法の重要性を強調し、「法の支配」を掲げたが、こうした外交姿勢は帝国主義を否定するものではなく、むしろ促進・強化するものであった。こうした20世紀前半の米国外交への批判的洞察は、国際法の擁護者として描かれてきたウィルソン外交(Mark Weston Janis)への修正にもつながっていく。
その他、現代のアメリカに広がってきている超党派の非介入主義、それが長期的に米国外交にもたらす影響について分析した「1930年代に回帰する米国?ークインジー研究所と新しい国際主義の模索 」を『国際政治』に掲載した。2020年に世界に広がった新型コロナ感染で、米国は最大の感染者・感染死者数を出し、内に抱えてきた弱さを露呈した。このコロナ危機の経験も、非介入主義を促すものと見込まれる。コロナ危機で可視化されることになった米国の政治・社会の問題については「コロナ危機で変わるアメリカー「大きな政府」への転換点」『国際法外交雑誌』として出版することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は新型コロナの感染状況が許せば、ヴァージニア州のスタウトンにあるThe Woodrow Wilson Presidential Library and Museumなどで資料収集と調査を行う予定である。また、前年度までに考察を進めてきた、時代とともに変遷してきたウィルソンに対する評価や、錯綜するその現代的な意義やレガシーについても十分に取り込んで、執筆中の単著を完成させる。それらの作業と並行して、「ウィルソン主義」「リベラル国際主義」と呼ばれてきたところの、現代アメリカの世界関与が根本的に批判・挑戦されている現在の知的状況や現代アメリカ外交に関する考察を進めていく。
現バイデン政権は、前トランプ政権との差異化を意識して「国際主義」の姿勢を掲げてきたが、その外交の実態はトランプ外交と本質的に変わりがない「米国第一」(バイデン外交の言葉では「中間層のための外交」)ともいえる。
しかし、こうした「国際主義」の傾向は決してバイデン政権だけのものではなく、ウィルソン以来の米国「国際主義」外交に広く見られてきたものである。昨今の研究では、第二次世界大戦を契機とする米国外交における「国際主義の勝利」、その後、米国を中心に構築され、制度化されてきた「リベラル国際主義」という広く受け入れられてきた考えに対し、そうした美化するような名指しが、その秩序の帝国主義的・介入主義的な実態を看過させてきたという批判的な問題意識も広がる(Samuel Moyn, Stephen Weitheimなど)。 今年度の研究では、こうした近年の研究動向を十分に踏まえつつ、ウィルソンの「国際主義」の批判的考察を進めていく。
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Causes of Carryover |
新型コロナ感染の蔓延、それに伴い、資料調査や学会報告のための海外渡航が不可能になったことを受け、「旅費」項目を中心に、計画の大幅な変更が余儀なくされた。新型コロナ感染の状況は、依然、予断を許さない状況ではあるが、2022年5月現在、渡航状況は改善されてきており、本年度に、資料調査および学会報告を目的とする海外調査を、夏と春の長期休暇中に実行する予定である。
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