2020 Fiscal Year Research-status Report
ナイル川の水資源の配分の交渉プロセスの解明:中東政治変動との関連に着目して
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18K12727
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Research Institution | Toyo University |
Principal Investigator |
Mohamed Abdin 東洋大学, 国際共生社会研究センター, 客員研究員 (40748761)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 気候変動 / 「アラブの春」以降の「中東政治の変動」 / 国際河川 / ナイル川 / ダム建設 / 東ナイル諸国 / 予測不可能性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、流域内政治の変容に加え中東全体の勢力図の変化と政治的軍事的諸同盟の再編を俯瞰しつつ、中東の政治環境の変化とナイル川の水資源の配分の交渉プロセスとの関連について、国際関係学の観点から分析することを主たる目的としている。近年、中東・アフリカでは、地球規模ですすむ気候変動により干ばつが頻発している。加えて急速な人口増加と経済発展を背景に水資源開発が急務となっており、国家間の緊張がこれまでになく高まっている。特に年間降雨量が少なく、自国の領土外から流れてくる「国際河川」に依存している国々にとっては、上流諸国と水資源の管理を協調的に行うことが極めて難しい課題となっている。本研究は、こうした背景のもと、東ナイル諸国(エチオピア、スーダン、エジプト)が水資源の配分をめぐっていかに交渉を進めているのかという問いに、中東政治の変動との関連に着目しながらこたえるもので、その分析対象は、東ナイル流域のエジプト、スーダン、エチオピアに焦点を当てている。 これまでに水資源の配分をめぐる対立が先鋭化しつつあるナイル川流域諸国間で、水資源配分の交渉過程がどのような要因に規定されているのかを交渉過程関連資料と関係者への聞き取りの分析を通して明らかにしてきた。今年度は、現地調査によるインタビューの実施は延期となったが、エジプト、スーダン、エチオピア各国で国際的な参加者によるオンラインによる学会、シンポジウム,ワークショップが活発に開催された。これらの機会に積極的に情報収集と人的ネットワークの構築を実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現地調査は延期されたが以下の研究活動を実施した。①<文献調査>過去の現地調査に手に入れた書籍や参考資料を整理した。②<オンラインによる国際シンポジウムへの参加およびネットワーク構築>オンラインで開催される本研究テーマの関連イベントに積極的に参加した。オンラインによる開催により、国外の集会への参加が容易になり、エチオピア、スーダン、エジプトのそれぞれの国の立場を擁護する主張に多く触れることができた。これにより、流域諸国間の対立構造の複雑化の理解を深めることが可能となった。また、イベントに参加する同テーマに関心をもつ研究者、ジャーナリスト、環境活動家などとのネットワークを広げることができ、本研究テーマに関する多角的な視点を得ることにつながった。また、将来的な、国際共同研究も視野に入れることができた。 ③<ニュースなどの定期的確認による最新動向のチェック>政府の立場のみならず、それぞれの国民がナイル川の水資源の配分をめぐる対立をどう認識しているかを、ニュースだけでなく、SNSコミュニティーの投稿等で幅広く確認した。その結果、政治的動員の手段として水資源問題が利用されており、また、問題の重層的構造があきらかになった。2021年度に、その結果を学会や研究会で報告するための準備を行っている。 ④<アウトリーチ>国際協力機関、コンサルタント企業、ジャーナリストなどからの相談に応じ、ナイル川水資源問題のみならず、東アフリカや中東情勢に関する解説をした。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度に延期したスーダンでの現地調査を実施する。具体的には、暫定政府関係者(灌漑大臣、GERDをめぐる交渉プロセスのスーダン政府代表メンバー)、政治家(暫定政権の母体政治同盟である自由と変革勢力・FFC関係者)、環境、防災、および安全保障専門家への聞き取りを実施する。また、リモートで手に入りにくい資料の収集も適宜行う。 加えて、日本語および英語の論考の執筆に着手する。現時点では、英語論文のファーストドラフトを書き上げており、この分析部分に現地調査で収集する情報を用いる。 また、本研究においては、スーダンからみたナイル川の水資源の対立と共生の可能性を主として見てきたが、この過程で、水資源問題を地域全体の安全保障問題としてとらえる必要が明確化してきた。このため、ナイル流域の対立軸を構成する主要国の研究をしている共同研究者と共に、研究の視野を広げていく必要がある。その第一歩として、エジプトを中心にナイル川問題に関心を持つ日本人研究者と協力し、共同研究の準備を2020年度中から開始した。2021年度には、これらの実績を共著として発表する計画である。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染拡大のため、現地調査が延期されたため次年度使用額が発生した。次年度には、延期された現地調査を実施する計画である。もしも、状況に改善がみられず、渡航が困難であった場合は、オンラインでのインタビューや学会研究会への参加に切り替え、参加費、謝金、文献資料購入費などを使途する。
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Research Products
(2 results)