2021 Fiscal Year Research-status Report
ナイル川の水資源の配分の交渉プロセスの解明:中東政治変動との関連に着目して
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18K12727
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Research Institution | Toyo University |
Principal Investigator |
Mohamed Abdin 東洋大学, 国際共生社会研究センター, 客員研究員 (40748761)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 気候変動 / 「アラブの春」以降の中東政治の変動 / 国際河川 / ナイル側 / ダム建設 / 東ナイル諸国 / 予測不可能性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、ナイル側流域内政治の変容に加え、中東全体の勢力図の変化と政治的軍事的諸同盟の再編を俯瞰しつつ、中東の政治環境の変化とナイル側の水資源の配分の交渉プロセスとの関連について、国際関係学の観点から分析することを主たる目的としている。近年、中東・アフリカでは、地球規模ですすむ気候変動により干ばつが頻発している。加えて急速な人口増加と経済発展を背景に水資源開発が急務となっており、国家間の緊張がこれまでになく高まっている。特に年間降雨量が少なく、自国の領土外から流れてくる「国際河川」に依存している国々にとっては、上流諸国と水資源の管理を協調的に行うことが極めて難しい課題となっている。本研究はこうした背景のもと、東ナイル諸国(エチオピア、スーダン、エジプト)が水資源の配分をめぐっていかに交渉を進めているかという問いにこたえるものである。 これまでに水資源の配分をめぐる対立が先鋭化しつつあるエチオピア、スーダン、エジプト諸国間で、水資源配分の交渉過程がどのような要因によって規定されるのかをその交渉過程の関係資料と関係者への聞き取りなどから明らかにしてきた。今年度も昨年度につづき、コロナに加えてスーダン情勢の悪化により現地調査は実現させることができなかったが、活発に開催されるようになったオンラインによる学会、シンポジウム、ワークショップなどをとおして、情報収集・人的ネットワークの構築を継続している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
スーダン情勢不安により調査を延期し、リモート調査、文献調査を実施した。 第一に、スーダン・エチオピア国境紛争の背景要因について、1)エジプトの関与、2)スーダン軍部の思惑の2つの観点から分析した。第二に、エチオピア内戦における地域各国の政治的スタンスの背景をナイル川水資源との関連を中心に分析した。第三にスーダン国内の軍部と民主化勢力の権力闘争に関して、エジプト内戦との関係についての分析した。第四に、エチオピア大ルネッサンスダム・GERD建設に関して、一方的ダム湖へのナイルの水の注入が地域全体にもたらした不安定化について分析し、エジプトによるスーダン政治、エチオピア内政への関与の高まりを解明した。 以上の調査による暫定結果を、2つの研究会で報告した。ひとつめは、2021年11月4日に開催された、新学術領域研究「グローバル関係学」主催による「中東木曜フォーラム」のウエビナー「スーダン緊急情勢報告会」である。クーデタの政治的背景を、スーダン・エチオピア・エジプト関係の分析を通して報告した。緊急報告であったにも関わらず、数十名の参加者により、同地域への関心の高まりを感じ、本研究の意義を再確認した。 ふたつめは、日本アフリカ学会関東支部による研究会「混迷する北東アフリカ情勢ーエチオピア・スーダン・南スーダン」である。スーダン研究の私に加え、エチオピア研究、南スーダン研究の専門家とともに、3か国の政治的関係性を中心にセミナーを実施した。このウェビナーには200名に近い登録者と、当日150名以上に参加していただいた。研究関係者のみならず、メディア関係者、企業関係者、政府機関関係者、学生、一般市民などに参加していただき、北東アフリカへの関心の高さが明らかであった。私の担当部分の発表ではナイル川流域と重なる北東アフリカ地域情勢を詳述した。
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Strategy for Future Research Activity |
最後の現地調査を2022年7月から8月にかけて実施する予定である。新コロナウイルスの状況が改善傾向にあり、スーダン情勢が渡航できるレベルになってきていることにより調査実施可能と判断した。 また、研究成果を国内外の学術雑誌で発表できるよう研究成果をまとめる作業に着手している。すでに、本研究に関心を示す海外研究者がおり、国際学術ジャーナルの特集号への投稿の依頼を受けている。また、引き続き、アウトリーチ活動として、一般市民、中東・アフリカ地域に転回する企業関係者、政府関係者向けに報告会を実施予定にしている。 本研究を発展すべく、2021年度中に研究セミナーを共同で実施したエチオピア・南スーダンを含むナイル川流域の研究者とともに、地域全体を俯瞰した研究を計画している。
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Causes of Carryover |
2021年度は、前半はコロナ禍、後半はスーダンの情勢悪化(2021年10月25日のスーダン軍部によるクーデタ以降、首都でも軍部と市民間の衝突が多発していた)により、スーダンへの渡航は不可能であった。予定していた現地調査を実施することができなかった。このため、多くの関係者へのインタビューや、一次または二次資料を手に入れることができなかった。現状では、その両方の状況が改善し渡航の目処がたった。 2022年度の私用計画は、以下のとおりである。 2022年4月以降、調査渡航先のハルツーム州において軍部と市民間の衝突も減少し、また、日本の外務省もスーダンへの渡航の自粛の呼び掛けを停止しており、渡航できる状態である。2022年7月末から8月末にかけてスーダン現地調査を実施する。帰国後、データをとりまとめ、12月まで論文執筆、12月から2023年2月末までに、論文投稿予定。また2023年3月には、研究報告書作成する。旅費、現地調査謝金、資料収集に研究資金を執行していく。また論文投稿と報告書作成のために必要な物品を購入する。
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