2019 Fiscal Year Research-status Report
中国の内政が対日政策決定に影響を及ぼすメカニズムに関する実証研究
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18K12731
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Research Institution | Nagoya University of Commerce & Business |
Principal Investigator |
兪 敏浩 名古屋商科大学, 国際学部, 准教授 (80530245)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 日中国交正常化 / 西沙海戦 / 毛沢東 / 周恩来 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度中は、中国での現地調査を中心に資料収集及び分析を行った。今回も資料調査が比較的にしやすい漁業分野を突破口に、1974年西沙海戦を事例に、1970年代中国の対外政策決定過程をのぞかせる資料を探し求めた。その結果、1974年西沙海戦に参入した海軍と海上民兵は南海艦隊と南海水産公司所属であったことが判明した。 暫定的な仮説に止まるが、1974年の西沙海戦は単なる合理的な政策決定に止まらない、より複雑な国内政治背景があると思われる。つまり1970年代米中接近後の中国の外交政策の展開について不満を抱いた毛沢東が周恩来をはじめとする対米交渉チームを激しく攻撃し、こうした対外政策の方向性をめぐる混乱が中華人民共和国成立以来の初めての海戦の発動に繋がったのではないかという仮説である。この仮説については今後も引き続き検証していきたい。他方当時海軍が抱えていた鋭い内部対立が同事件にどのような影響を与えたかという問題については引き続き関連資料の収集を進めたい。 1970年代前半の中国の対外政策決定の論理を解明することは同時期における中国の対日政策決定を解明するために必要不可欠な作業である。日中国交正常化後の中国の対日政策決定過程については不明な点が多い。例えば日中間の航空協定および平和友好条約の交渉がなぜそれほど縺れたかについてはこれまで中国の政策決定過程にまで踏み込んだ研究はほとんどなされてこなかった。 2019年度の研究活動の中から今現在見えてきたことは、この時期の日中関係を決定付けたのは単なる台湾問題や反ソ連問題をめぐる日中間の立場の違いだけではなく、対外政策方針をめぐる中国国内の深刻な対立と混乱の存在でもあったことである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2020年3月にオーストラリア国立公文書館に出かけ、1970年代の中国・オーストラリア外交交渉記録を調査する予定であったが、コロナ問題によりキャンセルを余儀なくされた。東京の外交史料館にも資料調査に出かけることができず、新しい資料の発掘が計画通りに進んでいない状況である。
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Strategy for Future Research Activity |
パーソナルネットワークの解明はかなり進展を見せている。今後引き続き周恩来―葉剣英ラインの対米交渉チームと軍部の関連性を明らかにしていきたい。これは1970年代の中国外交を読み解く一つのカギになると思われる。 2020年秋には、「デタントと中国外交の転換」(1972-1974)というテーマで学会報告(日本国際政治学会予定)を行う計画である。報告後さらに加筆修正して査読付き論文として刊行することを目指したい。
時間的な余裕があればさらに1972年日中国交正常化前後の中国の対日認識の変化について研究を進めたい。
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Causes of Carryover |
2019年度の春季休暇(2020年2月~3月)中にオーストラリア国立公文書館で資料調査を行う計画であったが、コロナ危機が発生したため、出張を中止した。 そのため新規史料の発掘作業は予定より遅れているが、この遅れを取り戻すために2020年度の夏季休暇中(8月)または春季休暇(2021年2月~3月)に海外資料調査を実行する計画である。 コロナ事態が収束せず、海外出張が依然難しいようであれば、次のような二つの対応策を検討したい。一つは海外在住の研究者に資料調査を依頼する。この場合は出張費が謝金の形で支出されるだろう。いま一つは、日本国内にいながら入手可能な資料をできるだけ入手し、データ分析を行うことである。いずれの方針を取るかは今年の秋に決断したい。
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