2018 Fiscal Year Research-status Report
国内政策を踏まえた貿易協定における持続可能性についての経済分析
Project/Area Number |
18K12773
|
Research Institution | Daito Bunka University |
Principal Investigator |
津布久 将史 大東文化大学, 経済学部, 講師 (20802333)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 貿易費用 / 貿易協定 / 国内政策 / 政策協調の維持可能性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、国内の政策を視野に入れた複数分野についての貿易協定の持続可能性について分析可能な枠組みを提供し、国家間の輸送費用がそのような協定の持続可能性に与える影響を明らかにすることである。国家間での輸送費用は、輸送技術やICTの発展により無視できるほど小さいものと考えられがちであるが、経済学的に輸送費用を考えた場合その影響力は未だに大きいことが示されている。このような実態を受けて本研究では、政府が貿易政策のみならず移民政策、環境や労働規制等の複数の政策を実施する状況を分析可能な枠組みを構築し、この枠組みの下で貿易協定の持続可能性と国家間での輸送費用の関係を明らかにする。 上記の目的の下で本研究課題は、貿易協定の持続可能性分析に関して以下の2点からの拡張を試みるものである。まず第1に、国家間での輸送費用を想定し貿易協定の効果を再評価することで、輸送費用の変化が当該協定の維持可能性に対して与える影響を明らかにする。第2に、各国の政府が貿易以外の分野についても交渉するような状況を想定し、複数の政策を踏まえた貿易政策の維持可能性に着目することである。 本年度は、輸送費用を含んだ産業内貿易モデルを構築し、これと関税政策の関係について分析を行った。この研究では、輸送費用と関税政策の基本的な関係を明らかにするだけでなく、輸送費用の低下が政策協調の維持可能性に与える影響についても分析した。分析の結果、輸送費用の低下が非対称的な2国の間での貿易協定の維持可能性を高めることを示す研究結果を得た。この他にも国内での環境政策の変更が、国際貿易を通じて各国の厚生にどのような影響を与えるのかを理論的に分析した研究を行った。この研究では、2国の大国のうち一方が国内での環境政策として排出権取引市場を導入する状況を想定しているが、このような市場の創設が創設した国にとっても厚生を改善しない可能性を示している。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、輸送費用の入った産業内貿易モデルに基づき輸送費用の低下が貿易協定の維持可能性に及ぼす影響についての結果をまとめた論文を刊行することができた。また、これに加えて環境政策として国内排出権市場の創設の効果を評価する理論モデルについての分析を行うこともできた。これは来年度、関税政策と国内政策の2つを同時に政府が考慮するような状況をモデル化し、これらの政策が輸送費用の変化によってどのような影響を受けるのかを分析する基礎が十分に整っていることを意味する。実際に初期段階の研究結果は、ワークショップにおいて報告を行い、いくつかのフィードバックを得て修正段階にある。このことから次年度の、国内政策を踏まえた貿易協定の維持可能性について分析を進める段階にいたっているため、本年度の研究計画については問題なく遂行されたと言える。
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度は、輸送費用を明示的にモデルに取り入れた国際貿易モデルの構築及び、環境政策が国際貿易を通じて厚生にもたらされる影響について個別に分析を行った。この分析に基づいて、計画通り次年度は複数の政策を考慮に入れた貿易協定の維持可能性を分析するモデルの構築を試みる。このモデルを用いた分析結果は早い段階で国内外の学会において報告しフィードバックを得て修正を行うとともに、まとまった結果については論文にまとめ学術雑誌に投稿する予定である。現時点では、特段大きな計画変更は予定していない。
|
Causes of Carryover |
本年度は研究課題の分析の初期段階であったため、これを報告する学会や研究会への参加が数多くはできず、旅費の執行額が想定以上に少なくなった。そのため、来年度は積極的に学会や研究会に参加することで、本年度持ち越した金額を含めて予算を執行する予定である。
|