2019 Fiscal Year Research-status Report
数量的空間経済学の発展:複数均衡,ネットワーク,政策評価
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18K12776
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
藤嶋 翔太 一橋大学, 大学院経済学研究科, 准教授 (50706835)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 空間経済学 / ネットワーク / 政策評価 |
Outline of Annual Research Achievements |
携帯電話のアプリケーションを通じて収集された日本全国の移動トリップのGPSデータを用いるとともに,ネットワーク理論で提案されたコミュニティ分割手法を適用することで,恣意性の少ない形で,かつ既存の行政境界にとらわれない都市圏の検出を行い,それらの人口シェアで見た規模分布の解析を行った.都市規模分布は都市・地域経済学における主要な研究トピックの1つであるが,これまでの研究における都市は町丁目などの行政区域の集合体であり,行政境界にとらわれない形で定義された都市の規模分布は,これまでほとんど分析されていない.最尤法により,いくつかの分布をデータとフィットさせた結果,2つの正規分布を混ぜたものが最も当てはまりが良いということが分かった.そして,このような分布は先行研究において考慮されることがなかったが,背後にある都市人口の動学モデルとして,ジャンプ拡散過程が考えられることを示した.ジャンプ拡散過程のもとでは,都市人口は基本的には幾何ブラウン運動に従うが,大きなショックにより変動することがまれに生じる.ここでの大きなショックは災害などを考えることができ,都市人口の動学モデルとして自然であると言える.
地域の生産ネットワークの構造を踏まえたPlace-Based Policyの分析については,当初はセミノンパラメトリックなモデルを考えていたが,頑健な結果が得られなかったため,パラメトリックなモデルで擬似最尤法により推定した.パラメトリックにすることによりモデルの一般性は低くなるが,地域経済変数のラグを入れて推定することができた.また,各自治体の公共施設の郊外化への取り組み具合をデータ化するため,国土交通省の都市計画現況調査を用いて,公共施設に関連する特別用途地区の面積を可住地面積で割ったデータを作成し,これを操作変数として採用した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
都市圏の検出に関する研究については,査読付き国際学術雑誌に研究成果を出版することができた.Place-Based Policyに関する研究については,都市・地域経済学の主要国際学会であるUrban Economics Associationで報告を行った.また,第1版の論文をまとめ,経済産業研究所からディスカッションペーパーとして公開した(公開されたのは2020年4月).
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Strategy for Future Research Activity |
以下の点を課題として,研究を推進していく予定である. ・Place-based Policy(具体的には,中心市街地活性化政策)を評価する際の地域経済変数として,一人あたり所得と一人あたり小売売上のみを考えているが,他にもどのような変数を考えるか検討する.なお,現時点では,会計検査院による中心市街地活性化政策に関する報告書を参考にして,法人税や固定資産税の税収に関連する変数を検討している. ・得られた結果を解釈し,どのような政策インプリケーションにつながるか考察する.さらに,都市・地域経済学において議論されている集積の経済(Marshall-Arrow-Romer localization economies, Porter's localization economies, Jacob's externalities, Henderson's urbanization economiesなど)に関するこれまでの実証研究との関連についても考察する. ・限界処置効果は研究者が観測できない地域の異質性に条件付けられた処置効果であるが,この「研究者が観測できない地域の異質性」として具体的にどのような内容を想定するのか検討する. ・モデルの関数形を変えるなどして,推定結果の頑健性を検証する.
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由:メッシュデータなどの地理的に細かいデータを扱う予定だったため,データを作成するのに必要なGIS(地理情報システム)ソフトウェアの費用を計上していた.しかし,当面は市単位のデータで分析を行うことになったため,2019年度においては不要となった.
使用計画:論文の第一稿は完成しているため,国際学会で発表する予定である.したがって,そのための旅費に使用する予定である.また,学術雑誌に投稿した際の査読対応で必要になった場合は,GISソフトウェアの購入やリサーチ・アシスタントの雇用のために使用する予定である.
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