2018 Fiscal Year Research-status Report
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18K12786
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Research Institution | Institute of Developing Economies, Japan External Trade Organization |
Principal Investigator |
會田 剛史 独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所, 開発研究センターミクロ経済分析研究グループ, 研究員 (40772645)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 要求水準 / 主観的厚生 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、近年の開発経済学・行動経済学で注目される、貧困と行動経済学的要因との間の相互依存関係である「貧困の罠」について、フィールド実験とミクロ計量経済学の手法を組み合わせたアプローチにより分析するというものである。この目的のために、今年度は主に以下の2点について研究を進めた。 (1) 「要求水準(level of aspiration)」と貧困との相互依存関係を分析するために、関連研究の総括的なサーベイを行なった。要求水準のメカニズムについては、その理論的研究が行われており、いくつかの理論モデルが考案されている。特に重要なインプリケーションとして、要求水準と現状との乖離が大きくなると、投資が抑制されるために貧困から脱することができず、これがさらなる要求水準の低下を生むというスパイラルが指摘されている。一方、関連する実証研究については、この相互依存関係を厳密に検証したものは多くない。このギャップを埋めるため、以前に実施した要求水準の決定に関する経済実験データのクリーニングを行い、実験により計測した要求水準と貧困指標との関係性に関する分析を始め、基本的な分析結果が出揃ってきた。 (2)主観的厚生の地域間格差について、南アフリカの家計調査データを用いて空間計量経済学的分析を行なった。既存研究においては、このような格差を生む要因として地域ごとの制度の違いに注目したものが多かったが、本研究においてはそれを相対所得の違いから再解釈して、より詳細な分析を行なった。このような相対所得は自身の要求水準の決定にも影響を及ぼすため、(1)の研究とも関連性が強いものである。この成果については、国際学会にて報告し、論文改訂の指針となるコメントを得ることができた。また、この他にも主観的指標と貧困との関連性を分析するためにネパールにて高齢者を対象とした家計調査を実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は本研究の主要テーマの一つである要求水準及びそれに関連する主観的厚生指標に関する研究を重点的に進めることができた。この成果を元にさらなる経済実験の実施を計画している。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の研究実績を踏まえ、今後も大きく以下の2つの柱を中心に研究を進めていく予定である。 まず、(1)の要求水準と貧困の関係性の論文については、すでにデータクリーニングが終わり、基礎的な分析結果も出ている。この分析結果については、論文にまとめた上で学会・セミナー等で報告し、フィードバックを得ることで分析の精度を高めていきたい。また、これに加えて、要求水準の決定メカニズムに関する理論モデルに基づいた構造推定アプローチによるデータ分析を行うことも目標としている。これにより、理論研究と実証研究との間のギャップを埋めることを目指す。この分析についても、適宜フィードバックを得ながら進めていきたい。さらに、以上の研究の他にも、これらの分析結果を元に、要求水準の形成に関するより詳細な経済実験の実施を予定しており、そのために経済学・心理学を中心とした関連分野での既存研究の整理と実験デザインも併せて行う。なお、実験の実施にあたっては現地協力者とも協議し、現地情勢を踏まえた上で計画を立てる。 次に、(2)の主観的厚生の地域間格差に関する空間計量経済学的分析については、学会報告等で得られたコメントに基づいて現在もさらなる分析を進めている。この結果は論文としてまとめ、所属機関のDiscussion Paperとして公開予定である。並行して学会・セミナー等でも報告をして、論文の改訂を進め、国際学術雑誌に投稿することを目標としている。この他にも、以前に執筆した主観的厚生指標と客観的貧困指標との関係性をミクロ計量経済学的手法により分析した論文についても改訂作業を進めており、終了次第国際学術雑誌に投稿する予定である。なお、この論文も貧困の心理的側面に注目した行動経済学的分析の研究であり、特に主観的厚生の地域間格差分析の基礎ともなるものであるため、本研究課題に合致したものである。
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Causes of Carryover |
以前から進めていた要求水準の決定に関する実験データ分析と、主観的厚生に関する南アフリカの家計調査データ分析が当初の予定以上に進んだため、計画の一部を変更した。また、ネパールの家計調査については他プロジェクトのデータを使えることになったため、今回予定していた独自の家計調査を実施する必要がなくなった。 なお、次年度使用額については、実施予定の経済実験のパイロット実験を行うために使用することを計画している。
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Research Products
(1 results)