2020 Fiscal Year Research-status Report
介護職従事者の職業選択と労働供給の要因に関する実証分析
Project/Area Number |
18K12801
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
長谷部 拓也 上智大学, 国際教養学部, 准教授 (60748896)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 介護職 / 労働供給 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は介護職への労働供給の決定要因を探る実証分析を行うことを目的としている。2020年度も、前年度までと同様に介護職従事者の就業継続要因の分析を継続して行った。分析には、毎年行われている介護労働実態調査の「介護労働者の就業実態と就業意識調査」から得られる介護労働者の就労の条件や状況のデータを用いている。介護労働実態調査は同一個人を追跡したパネルデータではないが、毎年同様の母集団を対象に調査を行っている。こうしたデータに最尤法に基づく疑似パネルデータの推定方法を応用し、個人レベルでの就業継続確率とその要因の実証的な分析を行った。 特に着目した要因は賃金である。2010年から2018年までの調査データを用いた分析では、時間当たり賃金の上昇は就業継続の確率の高まりが有意に相関があるという結果が得られた。介護職は離職率の高さがたびたび問題と挙げられる一方で、その他の一般的な職業に比べて介護報酬制度などを通して賃金と政策の関わりは大きい。賃金の上昇と就業継続確率の正の関係が実証的に確認できたことは政策的に有意義であると考えられる。ただし賃金の内生性が考えられるので、賃金を上げる事が就業の継続を引き起こすとする因果関係として解釈するには留意が必要である。内生性を考慮した分析を行うことを検討している。 賃金以外の着目した要因として、景気の状況が就業継続確率に与える影響も分析している。本研究は都道府県別失業率で景気の状況を計測した。推定結果は、失業率が高いと継続確率も有意に高いことが確認された。介護職への労働供給が景気の循環とともに変化していることを示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
2020年度は新型コロナウイルスの感染拡大の影響もあり、研究計画に大きな滞りが生じた。当初計画していたセミナーや学会での報告を行えず、結果をまとめて論文を執筆する作業に遅れをきたしている。上記の分析に並行して別の分析のためのデータ整理も行う予定であったが、その作業にあてる時間やRAの確保が困難であった。総合的な進捗状況の自己評価を「遅れている」とした。 一方で、前年度まで生じていた推定のためのプログラムを実際のデータを用いると収束しない問題も、プログラムを書き直したことと追加的にデータを増やしたことで問題が起こる頻度を減らすことが出来た。本来であれば2020年度が本研究課題の最終年度であったが本研究課題の延長している。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は、引き続き分析手法の緻密化および追加のデータを用いた分析を行うことを検討している。実証分析から得られた結果をまとめて論文の執筆を行う予定である。論文執筆と並行してセミナー報告などを通した他の研究者の方々との意見交換を予定している。ディスカッションペーパーとしてまとめて、学術雑誌への投稿を目指す。
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Causes of Carryover |
当初の計画では学会参加や意見交換のために国内出張や海外渡航費用を計上していたが、新型コロナウイルス感染拡大のために移動を控えたために残額が生じた。 次年度も主に国内の学会での論文報告のための移動費として使用する計画である一方、データ整理を迅速化するためにリサーチアシスタントの追加的な雇用も予定している。さらに、学術雑誌への投稿にあたり、英語校正のための費用と投稿費としても使用する予定である。
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