2018 Fiscal Year Research-status Report
国内経済格差と地域間租税協調の維持可能性に関する理論分析
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18K12805
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Research Institution | Chubu University |
Principal Investigator |
須佐 大樹 中部大学, 経営情報学部, 講師 (30759410)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 資本課税の協調政策 / 協調の維持可能性 / 域内の経済格差 / 選挙のタイミング |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、国・地域をまたいで移動可能な資本を対象に財政政策(特に資本課税)を通じて自国・自地域へと誘致すべく展開される地域政府間競争(財政競争)の研究文脈に位置づけられ、特にその協調政策の維持可能性と各国・地域内の資本分布に特徴づけられる所得格差との関係に主な焦点を置いている。域内企業の生産性や資本賦存量などに基づく地域間の非対称性は、財政競争環境下に置かれたそれぞれの地域で設定される税率に差を生み出し、さらにこれは経済内の資本配分に関する非効率性の要因となってしまうが故に、協調政策が設定された際の維持可能性とその条件について分析することは一定程度の意義があるといえるだろう。 資本課税競争と協調政策の維持可能性について分析する際に、既存文献で多く用いられている理論的フレームワークは繰り返しゲームに基づくアプローチである。本年度はこの枠組に対して、地域内の市民間に資本賦存量に関する異質性が存在するとし、さらに最もシンプルと考えられる直接投票(多数決投票)で資本課税率が決定されると仮定しつつ、モデルの構築および解析を試みた。しかしながら、これら新規的要素の導入により均衡の存在が失われ、協調政策の維持可能性を検討できない結果となった。この点については、アプローチの方法を変更しつつ、2019年度以降に更なる検討が必要とされる。 また、政治的要素に関する地域間の非対称性として、政策決定者を選び出す選挙の相対的なタイミングの違いを挙げることができるが、この違いと地域内の経済格差が地域間の資本課税率の差にどのような影響を及ぼすかについても検討を行った。結果として、早期に選挙を行う地域はその後に選挙を行う地域に比べ高い税率を設定する傾向にあり、さらにその差は地域内の経済格差が大きくなる程に拡大される、ということが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
上記においても触れられたように、計画立案当初に想定されていた基本的なアプローチ(繰り返しゲームのフレームワークを用いた租税政策協調の分析に対し、域内個人間の資本賦存量についての異質性が存在し、政策決定が直接投票を用いて決定されるモデリング)において均衡が導出されなくなる問題が生じてしまった故に、この解決に時間を要している状況にある。 一方、租税政策の面での協調が必要とされる本源的理由である国・地域間の資本課税率差と各地域内での経済格差との関係を探る意味合いで、間接民主主義制度下での選挙タイミングの相対的な違いに着目した分析にも取り組んでいるが、この分析に関しては概ね問題なく進行中である。分析結果をまとめた論文については、2019年度内に査読付き専門誌へ投稿する段階に移行できると目される。
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Strategy for Future Research Activity |
租税協調の維持可能性について繰り返しゲームのフレームワークを用いることで、域内の経済格差の影響を分析するアプローチについては、引き続き理論モデルに若干の変更を施しながら問題なく均衡が導出されるように試みていきたい。この手続において仮に解析的な意味で明示的な均衡が導出されない場合には、研究計画立案の際にも考慮されていた数値計算による分析へと方策をやや転換する場合も考えられる。 また、協調政策の維持可能性についての文献では、2000年代後半から上記にあるような繰り返しゲームを用いるアプローチがその理論モデルの明解さと扱いやすさもあり主流となっているが、本研究を推進することにおいてはそのアプローチが研究文献に登場する以前の租税協調政策を扱う理論的フレームワークが有効である可能性も考えられる。これについても、現状を打開する策として採用ができるか否か検討していく。 加えて、租税協調が必要とされる理由である地域間の税率差と地域内での経済的格差との関係を分析する面では、先の項目でも述べられたように間接民主主義制度下を想定したアプローチを取っているが、更にこれに加えて財政競争環境下にある対象地域がそれ以外の経済に対してどの程度開かれているか(特に資本市場へのマーケットアクセスの容易さ)を考慮した理論モデルの構築と解析も今後の研究課題として挙げられる。
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Causes of Carryover |
研究計画立案当初に必要と想定されていたコンピュータ及び周辺機器等の資材・設備が、既存のものを使用可能な状況にあったため、また、前項で述べられたように研究の進捗に若干の遅れが生じている現状であるがゆえに、研究報告の段階に一部至っていないことの2点が当該助成金の繰越が生じた主たる理由である。推進方策の若干の変更に伴い、使用が予定されているソフトウェアやコンピュータの購入および、検討課題が消化された後の研究報告にかかる費用(英文校正・学会報告のための旅費)にこれらが充てられる計画である。
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