2019 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
18K12811
|
Research Institution | Tokyo Keizai University |
Principal Investigator |
重田 雄樹 東京経済大学, 経済学部, 講師 (90793331)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 非期待効用理論 / 投資と消費の意思決定 / 資産価格理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成31年度(令和元年度)においては、平成30年度に進展した研究を論文としてまとめる作業を中心として行った。具体的には、曖昧性回避を持つ投資家の存在を前提とした資産価格理論モデルの実証的評価を論文としてまとめ、主体の主観的割引率が内生的に変動する場合の消費と投資の意思決定について更なる研究を行った。 投資家が自己の資産価格の分布、特に収益率の分散に対する認識が必ずしも正確ではないと分かっている時に、曖昧性回避により、全ての金融資産に均等に資金を振り分けることが最適な投資選択になることは、30年度以前の研究により得られている。31年度の研究において、このような投資家の存在を仮定した時、従来の資本資産価格モデルとは異なり、個々の資産の均衡期待収益率が市場の金融資産全ての期待収益率の単純平均(等金額ポートフォリオの期待収益率)にも依存することが分かった。さらに、等金額ポートフォリオの期待収益率のリスクの市場価格と呼ばれるパラメータが負となることが理論的帰結として得られた。一般化モーメント法(GMM)による米国株式のデータセットを用いた実証的検証では、多くの場合においてリスクの市場価格が負となることが分かった。ただ、この結果は必ずしも統計的有意性やパラメータ識別のための階数条件を満たしているとは限らなかった。しかしながら、実際のデータと部分的ながら整合的な理論モデルであるということは確認できた。 30年度より進めている主体の主観的割引率が内生的に変動する場合の消費と投資の意思決定については、従前では厳密には示せていなかった離散時間モデルから連続時間モデルへの収束について、数学的に妥当な方法で証明することができた。これにより、二項関係で特徴づけられる離散時間モデルの含意を連続時間モデルに対しても厳密に解釈することが可能となり、より一層正確な経済学的基礎付けが可能となった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成31年度(令和元年度)においては、実績の欄で述べた曖昧性回避に基づく資産価格理論モデルと主体の主観的割引率が内生的に変動するモデルを学会・ワークショップ等で対外的に発表し、多くのフィードバックが得られた。また、30,31年度に完成した曖昧性回避に基づく投資理論の実際のパフォーマンスに関する論文と主観的割引率が内生的に変動するモデルを査読学術誌に投稿した。この査読過程を通し、両研究論文における主題について研究上の多くの示唆を得られた。特に後者に関しては、現在も査読進行中であり、またプレプリントの位置づけで京都大学経済学研究科のワーキングペーパーとして刊行している。 ただ、失望回避モデルの資産価格理論への応用に関する検討について、いくつかの理論的な困難が存在することが本年度の研究遂行において分かり、この作業については現在、やや停滞している。 しかしながら、強い関連性のある代替的な研究が進展していることもあり、研究計画自体はおおむね順調に進展している。
|
Strategy for Future Research Activity |
今年度は、昨年度まで得られた研究結果の更なる精緻化と、学術論文の査読学術誌への投稿を中心に行う。 特に曖昧性回避に基づく資産価格理論モデルについては、学術誌への積極的な投稿や対外的発表を考えている。 加えて、曖昧性回避はExpectation-Based, Reference-Dependent Preferencesと呼ばれるある種の行動経済学的モデルとの関連性があることが研究の進行により判明したので、その点に着目して研究を進めたい。 また、主観的割引率が内生的に変動するモデルの手法を準双曲割引モデルに応用できることも判明したので、研究論文とまとめ上げることを目標とする。 このような行動経済学的モデルは非期待効用理論の一部と考えることができ、本研究課題の更なる深化の一助となると考えられる。
|
Causes of Carryover |
令和2年3月4-5日に龍谷大学で開かれるワークショップに参加する予定であり、そのために旅費として使用する予定であったが、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い、上記のワークショップが中止となったため、次年度に繰り越しが生じた。次年度使用額は学術誌の論文投稿料に充てる予定である。
|