2018 Fiscal Year Research-status Report
18世紀初期の株式市場における認知バイアスの学際的・空間的実証研究
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18K12823
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
山本 浩司 東京大学, 大学院経済学研究科(経済学部), 准教授 (80780080)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 金融史 / 金融バブル / 投機行動 / 近世史 / イギリス史 / 行動経済学 / 社会心理学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、18世紀初頭の投資家の認知バイアスを、綿密な歴史史料分析によって抽出し、そこから金融史研究に行動ファイナンスと行動経済学の視点を実証レベルで導入することにある。近年、ミクロ経済学や金融論においては、行動主体の合理性の限界を認識し、古典的理論では説明できない限定的合理性(bounded rationality) や認識バイアス(cognitive bias)を特定する実証研究が近年盛んに行なわれている。こうした行動経済学と行動ファイナンスの動向は、金融史においても形式的に言及されることはあるが、歴史的文脈にそくした認識バイアスがあったことは全く想定されていないと言っても過言ではない。これを踏まえた本研究が目指す大きな目的は、これまで経営史、金融史、文化史の結節点において成果をあげてきた申請者の経験を活かし、300年前の投資家の経験と認知バイアスを歴史的に再構成することである。 2018年度は、必要なデータ群の分析を進めるため、申請者が立ち上げに協力した国際的研究ネットワーク「History-of-finance.org」を活かし、関連研究協力者を日本に招聘し、議論を深めることに注力した。具体的には、10月に、下記のMurphphy教授とLeemans教授に加え、オランダ、イギリス、日本の研究者を東京に招聘し、金融史に関する国際シンポジウムを開催した。多くの日本の研究者と大学院生が参加し、意見を交換した。また、開催にあたり、英国経済史学会、大和日英基金、Netherlands Organization for Scientific Research、東京大学Center for International Research on the Japanese Economyの各団体から助成を獲得することができた。今後もこのような活動を継続することで、ファイナンス・金融史の国際拠点としての日本の地位を高めることができると考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2018年度には、未刊行の手書き契約文書群の史料的価値とその分析の際の注意点を研究協力者と確認することができた。その分析の核となるのは、遠方に住む投資家がロンドン在住のブローカーに権限を委任した委任状である。これら委任状は、取引締結をした日付、双方の職業、居住地、そして委任された権限の詳細(主に銘柄・取引価格の上限)が定型に沿う形で記載されている。これらの情報が記載された契約文書が南海泡沫事件の前後3年間だけでも数百点以上あることを申請者は確認し、またそのような定型文書が流布した社会・経済的背景についても理解を深めることができた。データの本格的分析は2019年度の課題として残されたが、その準備を整えることはできたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度は、この史料群のデータ処理を本格化させ、同時に収集した関連書簡のさらなる分析をすすめたい考えである。契約文書群のデータ化を進めることによって、金融市場黎明期におけるブローカーの居住区域や職種、クライアント層、そして取引銘柄や委任された取引規模の分析が初めて可能となることが予測される。しかしながら、このデータ処理については、情報のカテゴリー分け(classification)と可視化(visualisation)において試行錯誤が必要であり、特に委任状から判明する個人のデータをどの程度まで、遺書、洗礼記録、書簡や家計簿などの史料と組み合わせることが可能かつ現実的かについても、慎重な検討が必要である。 データベースのプロトタイプを作り、試験的な分析をすることを今年度の目標とする。どのようなコミュニティが、どのような投資行動を行っていたのかを空間的に広がる社会ネットワークとして理解し、データの可視化を質的史料の分析と組み合わせることで、投資行動の理解が空間的、社会的な文脈に依存していたのかどうかを分析したい。自分たち以外の投資行動全般を「愚かさ」の結果として理解するような認知パターンは、どのようなコミュニティに多くみられたのか?それは専門性や排他性をもった富裕層投資ネットワークの特色なのか?社会的多様性をもったコミュニティにおいてはどうだったのか?株式市場の説明原理としての「愚かさ」は「非合理的バブル」として現在にまで受け継がれる視点であるが、そうした視点が醸成されやすい社会的・文化的ネットワークがどのようなものであったのかは、まだ解明されていない。この本質的な問題について理解を深めるのが、本研究2年目の目的となる。
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Causes of Carryover |
研究費の節約に努めた結果、9,140円ほど残額が生じている。次年度予定している史料群のデータ処理のための人件費へ充当する予定としている。
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Research Products
(9 results)