2020 Fiscal Year Research-status Report
Study on British Railway Engineers: Focusing on Competitiveness, Cooperation, and Networking between Engineers
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18K12830
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Research Institution | Tezukayama University |
Principal Investigator |
冨田 新 帝塚山大学, 経済経営学部, 准教授 (50611810)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | イギリス鉄道業 / 鉄道技術者 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、イギリス鉄道技術者のデータベース構築を通して、その関係性・ネットワークを明らかにし、彼らのルーツと役割・業績・影響力について、鉄道業の生成・発展との関連の中で再評価することを目的としている。 今年度は、18世紀から20世紀にかけての鉄道技術者をリスト化し、氏名・誕生年・死亡年・出生地・主な職業・親の氏名と職業、教育、徒弟制度利用状況、調査・計画立案・建設・監督等に関与した鉄道会社名と肩書および期間、特許取得状況、出版物、パートナーその他関連情報等を入力する作業を行ってきた。これまでの研究を通して、土木技師と炭鉱・機械技師ネットワークは、排他的・競争的である一方、時に協調的側面も有しており、その関係性は極めて複雑であることが明らかとなっている。これらの研究成果の一部については、現在分担執筆中の日本の『鉄道百五十年史』(2022年発行予定)の第1章第1節~第5節の中で、特に幕末・明治維新期における鉄道情報が海外からどのように伝わり、お雇い外国人がどのような役割を果たし、日本人技師の育成がどう行われたのかについて言及している。さらに、明治政府が鉄道建設・運営に関し自国管轄権をどう確保し、さらに自主権の確立に向かおうとするのかについて明らかにする予定である。 本研究は、鉄道技術者の競争と協調という二つの視点に着目し、産業革命期以降の技術者でマクロレベルの大発明を担った発明家・技術者だけでなく、これまであまり重視されてこなかったミクロレベルの標準的発明家・技術者についても網羅し、鉄道業に関する知識・技術の普及とそれを可能にした社会的・人的資本ネットワークの形成・発展から明らかにしようとするものである。さらに、日本や諸外国で活躍したイギリス人技師を含めてグローバルな視点から分析を行い、よりダイナミックな人的資本の動きを明らかにしようとするところに意義があると言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
現在まで、リスト化した18世紀から20世紀にかけての鉄道関連技術者について、氏名・誕生年・死亡年・出生地・主な職業・親の氏名と職業、教育、徒弟制度利用状況、調査・計画立案・建設・監督等に関与した鉄道会社名と肩書および期間、特許取得状況、出版物、パートナーその他関連情報等を入力する作業を行ってきた。引き続き、情報を更新する作業を進める必要がある。 しかし、リスト化を行ったものの、その関係性について踏み込んで調査・研究を進めることができなかった。技術の進歩という点では、Mokyr(1990, 1991)、Allen(2009)などのマクロレベルの発明とミクロレベルの発明という分類を用い、特に本稿ではマクロレベルでの発明が実用化され普及するためには、続くミクロレベルの技術改良が持続的に続く必要があることを重視している。鉄道の場合、ニューコメンによる大気圧蒸気機関というマクロレベルの発明以降、ジョン・スミートンやジェームズ・ワットらが蒸気機関の改良に取り組み、19世紀にはリチャード・トレヴィシックが高圧蒸気機関を生み出し、これを蒸気機関車に応用することで近代的鉄道の基礎を築いた。それ以降、ジョージ・スティーブンソンらさまざまな鉄道技術者が改良に取り組むことで、より効率的な技術が確立・普及した。この過程では、特に土木学会、機械技師協会などを結節点とする技術者ネットワークの形成が重要となってくる。これが19世紀後半には、海外にも展開され、日本の鉄道開業に重要な役割を果たしたと言える。 なお、今年度は、現在分担執筆中の日本の『鉄道百五十年史』の第1章第1節~第5節の執筆に相当の時間を要し、本研究を進める上で大きな影響があった。これまで第1節~第4節までの執筆を終え、現在第5節に取り組んでおり、この研究成果を随時反映させていく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、18世紀から20世紀にかけての鉄道技術者データの構築について、引き続き随時更新作業を進める必要がある。彼らの氏名・誕生年・死亡年・出生地・主な職業・親の氏名と職業、教育、徒弟制度利用状況、調査・計画立案・建設・監督等に関与した鉄道会社名と肩書および期間、特許取得状況、出版物、パートナー、その他関連情報についてデータの更新を行う。 そして、構築したデータを基に、Oxford Dictionary of Biographyや技術者の各種伝記など二次資料も用い、技術者ネットワークの形成について明らかにし、また英公文書館や国立鉄道博物館等において収集した史資料をもとに、鉄道業の生成・発展の中での彼らの業績と役割について再評価を試みる。 さらに、イギリス鉄道技術者の海外、特に日本の鉄道建設への影響力について分析し、技術者と鉄道業の生成・発展をグローバルな視点からよりダイナミックに捉え直すことが必要である。このため、日本の公文書館、技術者関連団体などの所蔵史資料を調査・収集し、分析を進める。特に、日本の鉄道業の形成・発展については、イギリスからの技術導入およびその担い手としてのイギリス人技術者の存在が重要となることから、グローバルな視点からイギリス以外の国との関係性も踏まえ、彼らの動向・役割・業績・影響力について明らかにする。特に、リチャード・ヘンリー・ブラントン、エドモンド・モレル、リチャード・ビカーズ・ボイルら初期のお雇い外国人を中心に、彼らの来日までの足跡と来日の経緯、来日後の活動について研究を進める。 最後に、これまでの研究成果をまとめ、イギリス鉄道技術者の関係性・ネットワークや彼らの業績・役割の再評価について明らかにし、本年12月21日に開催予定の研究会(国士舘大学経営研究所主催)での報告や学術誌・紀要への論文投稿を行うことを通して、研究成果を示すこととする。
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Causes of Carryover |
引き続き、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受け海外への研究出張を見合わせたため、その分の旅費が余ることとなった。これについては、新型コロナウイルス感染症の収束状況にもよるが、出張が可能となった際には、迅速に出張を行い、処理することとする。
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