2020 Fiscal Year Research-status Report
低医療費と良質な医療提供の実現に向けたプライマリ・ケアの機能強化方法に関する研究
Project/Area Number |
18K12831
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Research Institution | Kitami Institute of Technology |
Principal Investigator |
伊藤 敦 北見工業大学, 工学部, 准教授 (40435251)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 診療所医療 / 診療の質 / ネットワーク診療 / 医師の診断感度 / 患者情報の共有化 / 医療モール / 機能強化 / プライマリ・ケア |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度に続けて低医療費と良質な医療提供の実現に向けたプライマリ・ケアの機能強化方法について検討した。 第1に、地域医療ネットワークの認知度とオンラインによる患者情報共有への賛否との関連を詳細に分析した結果、このネットワークに対する住民の認知度は17.8%、患者情報共有への賛成率は63.3%であった。特にこの賛成率はネットワークの認知度に依存することから、患者情報共有の効率的な施策の一つとして、地域医療ネットワークの知名度向上策が有益であることが示唆された。 第2に、プライマリ・ケアの機能強化に資するプラット・フォームとして医療モールが注目されているが、官公庁による公的な統計が存在せず基本情報が把握されていないため、悉皆調査を実施し現状分析を行った。医療モールは全国に2501箇所、医療モールを構成する事業所は11408施設存在していた。医療モールの8割は東京、神奈川、大阪、兵庫、千葉、北海道、埼玉といった経済圏の都市部に集中立地し、とりわけ人口密度と強く関連していた。2005年の医療施設数を1としたとき、2018年の病院数は0.93倍、診療所は1.05倍に対して、医療モールは8.28倍に拡大していた。医療モールは、公的資金の投入がなく、医療政策の潮流と独立した形で自発的に発展しているのは経済的合理性があるためである。 そこで第3に、医療モールの発展に向けて医師同士が効果的に連携す条件を探るために、ネットワーク診療モデルを設計しその効果を検証した。その結果、第1に医師同士の資質が高水準に担保されていること、第2に診療領域が相補関係にあることという条件を満たせば、取引コストを軽減し、患者と医師の診療領域のミスマッチを解消できる効果が得られることが判明した。よって、医療モールはこの2つの条件を満たすことができるのであれば、プライマリ・ケアの中で有効に機能すると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は主に2つの研究成果を残すことができた。第1に、前年度に実施したオンライン調査結果を継続して分析することで、オンラインによる患者情報の共有とこのネットワークの発展に資する政策評価を遂行することができた。第2は、これまでの先行研究では医療モールは事例レベルで知られていたものの、母数が不明確であったが、本研究では独自に開発した基本台帳を利用することで、国内に存在する全ての医療モールを網羅的に調査し、立地空間の分布と診療科の動向を把握することができた。特に、医療モールは立地と診療科を巡って戦略的に経営行動していることを明確化した。これらの結果は、プライマリ・ケア機能を強化する方法として新しい知見を提供している。 従前の政策論議では、患者の大病院志向やコンビニ受診といった過剰医療の問題が患者のヘルスリテラシーが欠如している中でフリーアクセスを容認していることが原因であると考えられてきた。しかしながら、本研究結果を踏まえる限り、医療モールの仕組みをプライマリ・ケアの中でうまく取り入れることで、過度に医療アクセスを制限しなくても、過剰医療の問題を修正できる可能性があることを示した。さらに、この医療モールには、診療の質と効率性を高める効果があるため、既存の診療所医療にはない競争優位性があり、病院の外来部門の代替財な役割を果たす可能性があることがわかった。 以上、幾つか有益なインプリケーションが得られていることから、本研究は概ね順調に進展していると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
令和3年度は、医療モール内の診療所や薬局を対象とした実態調査と効果検証を試みる計画である。全国の医療モールについては、既に基本台帳を整備し、母集団を把握しているが、医療モール内部の診療所医師同士の連携状況やマネジメントの実態については明確ではない。そのため、今後アンケート調査を企画・実施することによってこれらの課題を検証することを試みる。しかしながら、前年度に引き続き、新型コロナウィルスの影響で医療機関や現場における混乱が未だ続いていることに加えて、外来患者の自粛行動にに伴って、とりわけ診療所の経営状況が悪化していることは周知の通りである。このため、こうした状況が今後も継続するのであれば、今年度計画している調査研究が非常に困難であることが予想されるため、今後の状況に注視し、調査スケジュールを適宜調整しながら進めていきたい。
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Causes of Carryover |
昨年度は新型コロナウィルスへの対応で医療機関向けのアンケート調査を延期したために、予算として計上していた調査費用と実際の支出が相違している。
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