2021 Fiscal Year Research-status Report
低医療費と良質な医療提供の実現に向けたプライマリ・ケアの機能強化方法に関する研究
Project/Area Number |
18K12831
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Research Institution | Kyoto Prefectural University |
Principal Investigator |
伊藤 敦 京都府立大学, 公共政策学部, 教授 (40435251)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 診療所医療 / 医療モール / 患者情報共有 / 機能分担 / 医療連携 / 地域医療ネットワーク / 診療の質 / 患者満足度 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は低医療費と良質な医療提供の実現に向けたプライマリ・ケアの機能強化方法を解明するために以下の研究に着手した。 第1に、プライマリ・ケアの価値を探るために、オンラインモニター調査データを活用して診療所医療に対する満足度調査とCS分析を実施した。優位性については「かかりつけ医機能」と「検査機器・医療設備」が抽出された一方、問題点には「総合診療」「診療の効率性」、「第三者評価による品質保証」「情報開示・情報提供」「在宅医療の整備」が該当していた。それゆえ、診療所の優位性は、かかりつけ医機能と医療機器の整備が充実していることであるが、総合的診療が脆弱で診療の効率性が低いといった課題を抱えていることを指摘した。第2に、医療機関の垣根を越えて患者情報を共有化する仕組みとして地域医療ネットワークが推進されているが、既に大半のネットワークが停滞している。そこでこのネットワークの停滞要因を把握するために、初期投資額と運営モデルの妥当性に関する分析を行った。その結果、初期投資額が平均値のケースも中央値のケースも事業収支が不均衡な状態に陥っており,独立採算モデルではネットワークの持続が困難であることを明確化した。第3に、医療モールに関する医療需要と立地の効率性との関係を解明するために、札幌市をケースにハフモデルとDEAを用いた分析を試行した。その結果、医療モールの需要は効率性に比例するが、中心地よりも郊外の方が高かった。中心地に立地するほど、立地競争が激しくなるため効率性が低下することが示唆された。第4に、プライマリ・ケアの質を向上させる手法として、医師の診断感度を用いてネットワーク診療モデルを構築するとともにネットワーク診療の成立条件を明確化した。ネットワーク診療をプライマリ・ケアに導入することで患者の医療アクセスを担保しながら患者と医師のマッチングが実現できる可能性を示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は主に3つの研究成果を残すことができた。 第1に、インターネット調査会社のオンラインモニター2000人を対象に診療所医療に対するCS分析を試行した。その結果、日本の診療所医療における優位性と問題点を検証することができた。第2は、地域医療ネットワーク事業の停滞問題を解消するために損益分岐点モデルを構築し、わが国の平均的なケースについて会計的な分析を実施した。その結果、過剰な初期投資が地域医療ネットワーク事業の破綻を招く原因であることを突き止めた。第3に、医療モールの立地問題を検証するために、ハフモデルとDEAを用いて、効率的な立地について札幌市を事例に分析した。医療モールの立地効率性は都市部の中心地よりも郊外の方が高い傾向にあることが判明した。これらの結果は、プライマリ・ケア機能を強化する方法として新しい知見を提供していると言える。第4に、医療の質的向上に資するネットワーク診療モデルを構築し成立条件を明確化した。なお、今回はパンデミックによる医療現場の混乱を避けるために、当初予定していた医療モール内の事業者向けの実態調査を延期している。とはいえ、従前の政策論議では加味されていなかった医師側の質の問題や患者のアクセス保障を踏まえながら、プライマリ・ケアの機能強化に資する幾つか有益なインプリケーションが得られたので、本研究は概ね順調に進展していると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
前述したように、前年度は、新型コロナウィルスの影響で医療機関や医療現場の混乱が続いたことに加えて、外来患者の自粛行動に伴って、とりわけ診療所の経営状況が悪化していた。こうした事情から医療モール向けの事業者調査を次年度に延長することを決定した。 令和4年度は、医療モール内の診療所や薬局等の事業所ユニットを対象に取引コストの軽減に向けてどのような統合マネジメントを遂行しているのかを把握するために、実態調査を試行する。わが国の医療モールの母集団については、既に把握しており台帳も整備している。また評価手法と調査票も開発中である。医療モール内部の患者情報共有や統合マネジメントの実態については不明瞭なところが多いため、患者情報の共有化やネットワーク化をどのように実現しているのかを把握する余地がある。今後は事業者向けの調査を確実に実施する。 以上、これまで蓄積してきた研究成果に基づいて、低医療費で良質な医療提供の実現に向けたプライマリ・ケアの機能強化方法について提案したい。
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Causes of Carryover |
昨年度は新型コロナウィルスへの対応で医療モール向けのアンケート調査を延期したために、予算として計上していた調査費用と実際の支出が相違している。今年度は確実に調査を実施したい。
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