2018 Fiscal Year Research-status Report
変化の急速な市場環境下でのビジネスモデルの転換に伴う企業境界の再設定に関する研究
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18K12854
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Research Institution | Tokyo City University |
Principal Investigator |
橋本 倫明 東京都市大学, 都市生活学部, 講師 (30650460)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ダイナミック・ケイパビリティ / 取引コスト / 取引不可能性 / 取引不採算性 / 垂直境界設定 |
Outline of Annual Research Achievements |
市場環境が急速に変化した場合のビジネスモデルの転換に伴い、「企業は新たに必要となる技術や知識をどのように獲得すればよいのか」という本研究の目的(の1つ)を主として達成するために、企業の垂直境界設定に関するより優れた理論的枠組みとして、ダイナミック・ケイパビリティ論をベースとしたフレームワークを新たに提示した。 垂直境界の設定とは、ある製品供給に関して原材料調達、製造、物流、販売といった一連の流れの活動において、ある企業がどの段階の活動を手がけるのかを決定することである。これまでは、人間同士の取引において発生する調査や交渉の手間などの取引コストをより節約する方法を選ぶべきだという見解が主流だった。 しかし、変化が急速な市場環境下では、従来の見解では対応できない問題が出てくる。1つは、社外に十分な能力を持つ企業が存在しないという理由で、取引コストとは無関係に企業が自らの活動範囲を拡大するという「取引不可能性」の問題である。もう1つは、社外に十分な能力を持つ相手が存在するとしても、取引コストが極めて高いという理由で、彼らと取引することが自社にとって割に合わなくなるという「取引不採算性」の問題である。 このような場合、既存の資源を変革する能力(ダイナミック・ケイパビリティ)に基づく境界設定フレームワークが良い指針となることがわかった。取引不可能性の問題が起こるとき、強力なダイナミック・ケイパビリティを保有する企業は、社内の能力を強化することで自らの活動範囲を拡大するか、社外に適切な能力を持つ企業やネットワークを構築することで「取引できる」状況を自ら作り出す。また、取引不採算性の問題が起こるとき、強力なダイナミック・ケイパビリティを保有する企業は、社内の能力を構築することで自らの活動範囲を拡大するか、自身の統治能力を強化して取引コストをいっそう節約し、「取引が割に合う」状況を自ら作り出す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、市場環境が急速に変化した場合のビジネスモデルの転換に伴い、1.「企業は何を基準に企業内外の資源を結合したり再構成したりすればよいのか」、2.「企業は新たに必要となる技術や知識をどのように獲得すればよいのか」という「問い」に答えることであり、現在までのところ、2つめの目的を中心に研究を進め、上述のように、ダイナミック・ケイパビリティ論に基づく新たな境界設定フレームワークを提示できたためである。この内容につき、日本経営学会大会での報告も行った。 今後、このフレームワークをさらに精緻化することで、新たに必要となる技術や知識の獲得の巧拙が取引コストとダイナミック・ケイパビリティによって変わることを明らかにできると考えている。また、その過程においては、理論的フレームワークの経験的妥当性を確かめるために、事例調査や財務データ分析等を実施することを検討している。 一方で、1つめの目的に関しては今後の研究の主な対象とし、事例調査を行いつつ「共特化」という概念の理論的考察を深めていく。
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Strategy for Future Research Activity |
・目的1.「企業は何を基準に企業内外の資源を結合したり再構成したりすればよいのか」について、「共特化」概念を考察するために、文献渉猟と事例調査を実施する。 ・目的2.「企業は新たに必要となる技術や知識をどのように獲得すればよいのか」について、理論的フレームワークの精緻化のために、文献渉猟、事例調査、データ分析を実施する。 ・学会報告を実施し、他の研究者から有益なコメントや研究のヒントを得る。 ・研究成果の発信のために、海外ジャーナルへの投稿を行う。
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Causes of Carryover |
・理論的な考察に時間を要したため、費用のかかるデータ分析まで至らなかったため。 ・国内学会のみの参加であり、海外旅費負担がなかったため。 ・海外ジャーナルへの投稿まで至らなかったため。 次年度は、データ分析の実施、国際学会への参加・渡航費、海外ジャーナル投稿に関連する費用に助成金を充当する予定である。
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