2018 Fiscal Year Research-status Report
コネクテッド・イノベーションに必要な共有技術認識フレーム確立メカニズムの研究
Project/Area Number |
18K12858
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
深見 嘉明 立教大学, ビジネスデザイン研究科, 特任准教授 (70599993)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | コミュニティ支援 / マルチステークホルダー / 技術ハイジャッキング / 多面市場対応 / 実装主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究はネットワークに多様なモデュールが接続され、協調して動作することで初めて成立するイノベーションであるコネクテッド・イノベーションの実現に必要な、多様なステークホルダー間における「共有技術認識フレームを構築するためのコミュニケーションメカニズムの解明」を目的とし、探索的事例分析を実施する。 初年度である2018年度は、当初の計画をもとに、1)ウェブアプリケーションというイノベーションを成立させたHTML5仕様策定プロセス、2)国土地理院によるウェブ地図技術標準化への関与という2つの事例に関する分析を進めてきた。またコネクティッド・イノベーションにおいて避けることのできない、「多様なステークホルダー間におけるデータ実現に向けた認識すり合わせ」の典型的な事例として、3) 兵庫県丹波市における予防接種実施判定システムの開発ならびに地域包括ケア支援システムの開発という事例の分析を追加で開始した。 1) HTML5仕様策定プロセス分析では、提案内容の知的財産権が自動的に放棄されるというルールとなっているオープン標準化団体において、新たな技術認識フレームをもとにビジネスモデルを構築しようとする企業が標準化団体内外にてどのように協働体制を整えていったかについての分析を進めてきた。 2) 国土地理院によるウェブ地図技術標準化への関与の分析では、国土地理院によるアウトリーチ活動の効果分析のために、国内の関連産業の事業者、地方公共団体に対するヒアリングを実施するとともに、地理空間情報関連オープンソース開発者の国際団体に対するアプローチについて会議への参加等を通じて分析した。3)兵庫県丹波市の事例分析では、関係者のヒアリングと資料分析から、必要とされるシステムに関する共通認識の醸成プロセスの分析を進めてきた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1) HTML5仕様策定プロセス分析では、仕様策定プロセスにおける履歴データの多くが公開されており、当時の事象に関する分析を継続する事が可能であった。また近年の改定作業の一部がGitHubに移行されており、他の仕様開発事例との比較分析も容易になりつつある。 2) 国土地理院によるウェブ地図技術標準化への関与の分析は、国土地理院が主催する技術普及のための会合である地理院地図パートナーネットワーク会議登壇者(4民間事業者、3行政職員、1コミュニティメンバー)に対するヒアリングを実施し、国土地理院に普及活動の有効性について検証できた。また国土地理院担当者に対するヒアリングならびに、担当者が出席するオープンソース開発者の国際会議に同行し、技術者コミュニティとの連携や政府レベルでの普及活動について分析することができた。 3)兵庫県丹波市の事例分析では、住民基本台帳をベースとして作成される予防接種台帳のデータを、庁舎外の医療機関において活用するという先進的な事例であることが判明し、本研究の分析対象として追加した。地域医療・福祉政策においてプライバシー保護と行政事務の効率化、医療水準の維持という目標は共有されているが、各部局・機関に分散して生成・管理されるデータを統合して扱うシステムを具体的に開発・導入するには大きなハードルがあった。つまりコネクティッド・イノベーションが強く希求されていつつも、技術認識が統一されないために導入が進まないという典型的な領域である。兵庫県丹波市においては、行政と医師会の間で互いのオペレーションの効率化、接種誤りによる予防接種助成金の不払い防止というそれぞれの便益が両立され、かつ医療過誤防止という住民への便益が担保されるという認識が醸成されたためにシステムの導入に至ったという要因を抽出することができた。 各事例で分析が進み、国際学会への投稿も実施しています。
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Strategy for Future Research Activity |
2018年度において、3つの事例それぞれにおいて分析を進めることができた。今後は、分析の精度を高めるために以下の調査分析を進めていく方針でいる。 1) HTML5仕様策定プロセス分析は、策定が進められた標準化団体であるWorld Wide Web Consortiumの外側における各ステークホルダーのコミュニケーション分析を進め、静的な文書作成言語であるHTMLがアプリケーション実行環境へと役割が変わることに対する認識の醸成と広がりのプロセスについて分析する。 2) 国土地理院によるウェブ地図技術標準化への関与の分析は、2018年度に実施したインタビュー調査の分析を継続するとともに、国土地理院が普及を目指す技術仕様(ただし国土地理院によって開発された仕様ではない)を国内の地図事業者がどのように評価し、導入した(導入しなかった)かについての調査分析を進める。また、国連等を通じた国際的なアプローチの有効性についての検証を進める。 3) 兵庫県丹波市の事例分析は、予防接種実施判定システムに続いて実施されている地域包括ケア支援システムの導入事例分析を実施する。地域包括ケア支援システムでは、ステークホルダーが中核医療機関、処方箋薬局、検診センター、介護ステーションが追加されるとともに、共有されるデータが処方箋履歴などへと拡張される。ステークホルダーの拡大と、取り扱いデータの多様化が、共有認識の醸成、システム設計や技術仕様策定・採用に関する合意に対してどのような影響を及ぼすか、対象者へのヒアリングや、資料分析を通じて解析する。 これまで研究のアウトプットとしては、国内学会における口頭発表を中心に行い、理論的フィードバックを広く受けることを主眼においてきたが、今年度からは国際学会や学会誌への投稿、書籍等への執筆も実施する予定である。
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Causes of Carryover |
物品費において、分析作業用コンピュータが当初予定よりも、安価な機種でも目的を達することが判明し、購入機種を変更したため、使用額が予定を下回った。また、旅費は想定よりも宿泊費が安価に収まったため、使用額が予定を下回った。 本年度は、物品費は書籍等の購入に充当することを予定する。また旅費は、2018年度のインタビュー調査において、紹介された対象者への取材を追加で実施するための費用に充当することを予定する。
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