2019 Fiscal Year Research-status Report
20世紀における美術の制度変化の歴史社会学:市民社会と国家に着目した日英米の比較
Project/Area Number |
18K12935
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
笹島 秀晃 大阪市立大学, 大学院文学研究科, 准教授 (30614656)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | アート / 制度変化 / ニューヨーク / ネットワーク分析 / 抽象表現主義 / ポップ・アート / 文化生産 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度はアートの制度変化を明らかにするために、歴史資料を活用した時系列でのネットワーク分析をおこなった。具体的には、1940年から1970年頃までのニューヨークにおける絵画や彫刻をめぐるミュージアムや画廊といった展示施設のあいだのつながりの変化を検討した。展覧会カタログ等のデータから抽出した2モードのデータを解析することで、ニューヨークにおける1940年代以降のアートの制度変化を明らかにした。 アートの制度変化に関する先行研究は、理論的なものや歴史資料の質的な読解をとおした描写など、時系列の変化を体系的に記述する試みが十分になされてきたとはいえなかった。本年度の研究では、こうした問題を解決するために、近年、Nick Crossleyらによって行われてきた歴史資料を活用したネットワーク分析の手法を参考にし、独自の分析を行った。 こうした分析を通して明らかになった、1940年代以降のニューヨークのアート業界の変化は以下の通りである。1940年代ニューヨークにおいて、抽象表現主義の作家たちを中心に非常に小さいコミュニティが形成されていた。しだいに、このコミュニティがニューヨーク以外の地方のミュージアムとつながることにより、少しずつ展示のネットワークの拡大が見られた。そして50年代以降になると、ポップ・アートやネオダダといった新しい表現様式が登場し始めるが、それに伴い合衆国内だけではなく、国外にも展示のネットワークが拡大しはじめた。すなわち、ネットワーク・データをもとに、ニューヨークのアート業界における量的増加、関係性の変化、グローバル化の進展という様々な知見を得ることができた。 具体的な歴史資料をもとに、本研究における実証的研究の方向性を打ち出すことができたことは、本年度の大きな達成であった。この成果は国内学会で報告し、今後、英語論文として投稿する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度の研究の達成は、方法論的、かつ理論的な領域におけるものが主であった。すなわち、アートの制度変化をデータにもとづいて実証的に研究するために、歴史資料をもとにしたネットワーク分析の手法を構築し、また英語圏における文化生産論などのアートの制度変化の社会学の整理をおこなった。この意味で、理論的・方法論的な知見に関しては、ある程度、当初の予定通りの研究の進捗が見られた。 しかし、資料収集の面で、思った以上に作業が進まなかった。本申請研究で念頭に置いている多国間比較を行うに当たって、アメリカ以外にイギリスや日本の地域のデータを収集する必要があるが、十分に進めることができなかった。収集が十分に進んでいない理由には、一つには現地調査を十分に行うことができず、そもそも資料収集のための調査を進めることができなかったという根本的な問題がある。ただ、もう一つには、今年度の研究の進展により、以前には想定していなかったタイプのデータが必要があることがあらためて明らかになり、本研究課題を達成するために収集すべき資料が増加したためである。本申請研究を着想したときには、ネットワーク分析を中心的に行うことを想定していなかったが、本年度研究によってそうした手法の有用性がしめされ、アート業界の担い手たちの関係性を示すネットワークデータの収集が急務となった。今後は、こうした新たに必要となったデータを視野に入れ、資料収集を急いで進めていくことを目指したい。
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Strategy for Future Research Activity |
アメリカに関するデータは、ある程度集まったため、イギリス、日本といった国々のデータを漸次収集していくことを予定している。なによりも中心となるのは、展覧会の図録や各国の作家目録を活用した、作家の展覧会記録のデータ収集である。 幸いにも本年度末に、本国際比較研究に応用可能な作家目録を入手することができたため、今後は、この目録をネットワーク分析が可能なように入力し直し、分析を進めていくことを予定している。すでにデータ入力のアルバイトを雇いデータ入力の作業をはじめているので、次年度にはある程度の成果を出すことを目指している。 また、アートにおける制度変化を研究するためのネットワーク分析の手法として、時系列分析の新たな方法論や、指数ランダムグラフモデル(Exponential Random Graph Models: ERGM)などの統計的なネットワーク分析の手法を取り入れ、分析の精度を高めていく予定である。
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