2019 Fiscal Year Research-status Report
格差社会における租税の可能性‐持続的で安定した社会の実現に向けて‐
Project/Area Number |
18K12980
|
Research Institution | Kaetsu University |
Principal Investigator |
酒井 翔子 嘉悦大学, 経営経済学部, 准教授 (50740403)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 所得再分配 / 逆進性 / 最適課税 / 格差是正 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでの研究蓄積からは、わが国税制の所得再分配機能は、非常に限定的であり、将来を見据えた租税制度からは、かけ離れた状況にある。所得再分配を意図して給付付き税額控除の導入を果たした国・地域では、迫る格差社会に備えて、完全給付方式のベーシックインカムが試験的に導入されており、これらの文献整理を1年目に行った。 本研究の目的は、持続的で安心できる社会の実現に向けて、①財源確保のための最適な税体系、②格差是正のための所得再分配方法について、実証的に分析・検討することである。2018年度は、本研究の「問題意識」であるわが国所得税制の低い所得再分配状況について言及し、19th Global Conference on Environmental Taxation と15th Western Economic Association International Conferenceにおける2つの国際学会で報告し、1本の論文投稿を行っている(詳細は2018年度の「現在までの進捗状況」参照)。 2019年度の研究実績に関しては、研究目的の①に関連して、中立的で累進的な租税制度への観点から、20th Global Conference on Environmental Taxationにて「Global warming policy and local environmental taxes for realization of low carbon society」、租税実務研究学会第13回大会にて報告内容:「消費課税に関する諸外国の潮流」の報告を行い、②に関連して、現地調査により、英国における研究所(The Royal Society for the Encouragement of Art)の現地資料収集を行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度は、2018年度に中心的に行った資料整理・先行研究の精査に、現地調査・学会報告を通じて得た知見をまとめ、その成果として、学会誌に論文が掲載予定であり、計画当初想定していた予定通りの進捗度である。とりわけ、消費税に関して、現地調査で訪れたエディンバラ国立図書館では、英国付加価値税(VAT) に関する最新の文献に触れることができ、昨年度から軽減税率が導入されたわが国に非常に有意義な情報入手となった。その成果として、昨年の研究論文「消費課税の現状と課題-欧州諸国の議論を中心として-」に対する検討を一歩深めた形で租税実務研究学会における「消費課税に関する諸外国の潮流」報告に繋がった点は大きい。 さらに、本研究目的②格差是正のための所得再分配方法に関連したベーシックインカムについては、グラスゴーと共同で取組みを行っている研究所(The Royal Society for the Encouragement of Art)にも訪問し、管理者であるMichael Richardson氏に協力頂きながら現地資料に当たるとともに、随時、最新の論文等を継続して情報提供頂けるコネクションが得られた。今年度は1年目、2年目は着手できなかった英国のベーシックインカムワーキンググループ(working group to investigate universal basic income)の公表資料の整理を中心的に行う。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究テーマの1つである財源確保のための最適な税体系に関連して、6月26日から30日に開催・報告であった95th Western Economic Association International Conference (プログラム記載のテーマ:Tax avoidance and tax governance of multinational companies)は、新型コロナの関係で早々に報告辞退する判断となった。最終的には、オンライン開催となり、参加に至ったが、来年度、同学会において、今年度の報告事項の検討を深めた上で、再度、挑戦したい。 現時点でオンライン開催の決定している10月10日・11日の税務会計研究学会では、「租税回避対応策の国際的協調と課題」について報告する予定である。 さらに、進捗状況にも記したように、これまで主として、①の財源確保のための最適な税体系に傾斜していた検討課題に加え、②の格差是正のための所得再分配方法について、高福祉国の税体系も検証しながら、わが国の最適な税収構造を検討する。その際、欧州の最新資料や昨年度の現地調査により蓄積された資料整理を行うとともに、学会報告、論文化に努めていく。 2020年度は、本研究の核となる年度であり、国際学会、現地調査等を予定していた。一連の新型コロナの影響で実施できる事が限られる環境下にあるが、電子版の文献・政府関係機関の公表する最新資料の追跡により、これまでの研究活動で蓄積されてきた内容を一段階深めた検討・考察が積める様に工夫して取組むこととする。
|