2021 Fiscal Year Research-status Report
格差社会における租税の可能性‐持続的で安定した社会の実現に向けて‐
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18K12980
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Research Institution | Kaetsu University |
Principal Investigator |
酒井 翔子 嘉悦大学, 経営経済学部, 准教授 (50740403)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 所得再分配 / 逆進性 / 持続可能性 / 格差是正 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、持続的で安心できる社会の実現に向けて、説得力のある示唆を得ることを目的として、①財源確保のための最適な税体系、②格差是正のための所得再分配方法について、検討を行うことを目的としている。①・②のテーマに関して、これまで、19th Global Conference on Environmental Taxation と15th Western Economic Association International Conferenceにおける報告(2018年度)を行い、中立的で累進的な租税制度への観点から検討を行っている。また、租税実務研究学会第13回大会にて「消費課税に関する諸外国の潮流」の報告(2019年度)、さらに、「租税」が富・所得の再分配機能を通じた経済的格差是正機能に効力を発揮できるという問題意識に基づいて(a)「消費行動の格差と租税制度」『嘉悦大学研究論集』第63巻第1号,25-41頁、(b)「経済格差と租税制度」『経営志林』第57巻第2号,27-47頁の執筆を行い、(a)では、複数税率制度の改良、社会保険料の給付付き税額控除、金融取引に関する非課税項目の再考について検討・提案した。(b)では、富の格差を是正する租税政策、所得(個人所得と法人所得)の格差を是正する租税政策および消費税の逆進性を緩和する租税政策を検討・提案した(2020年度)。 2021年度は、大企業への優遇税制を問題意識とする消費・所得課税の両領域でそれぞれグローバル会計学会第3回大会「大企業の輸出免税における課題」、税務会計研究学会第32回大会「租税回避対応策の国際的協調と課題」の報告に繋げている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度は、長引くコロナウイルスによる社会状況により、国際学会の運用が例年通りに出来ない状況や報告を予定していた国際学会の参加辞退や開催延期により国外での活動には制限が生じた。一方で、2018年度以降の研究活動を通じて蓄積された研究結果や調査資料を用いて、国内の学会報告や論文投稿により、継続的に研究成果に繋げている。 たとえば、 (a)「英国におけるグリーンファイナンス戦略とTCFD勧告に基づく開示義務」(日本社会関連会計学会第34回)、(b)「気候変動関連情報開示の現状と論点整理」『産業経理』第81巻第2号,136-144頁、(c)「無形資産に対する市場国課税の経緯と進展」『租税実務研究』第12号,1-18頁などである。2021年度は、これまでの①財源確保のための最適な税体系、②格差是正のための所得再分配方法という主たる課題に根差した検討に加え、本研究の副題でもある「持続的で安定した社会の実現」の視点も広げ、世界規模で喫緊の課題となっている気候変動に係る議論も焦点に当てた現状分析・検討にも着手した。 上述の(a)・(b)では、主として英国の「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)による勧告の義務化を発端とする気候変動関連リスク・機会に関する11項目の財務報告開示の国際的関心の高まりと低炭素経済への円滑な移行へ向けた現状を追うことにより、経済活動と気候変動関連情報とを今度どの様に紐付け、対応し得るのかについて検討を行った。(c)では、グローバル化・デジタル化により、企業活動や社会の大きな転換期にある今日、従来型の国際課税原則では巨大IT企業による租税回避行為に対応しきれない現状問題に言及し、OECD議論を中心に市場国への課税とその税収配分方法を検討している。
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Strategy for Future Research Activity |
まずは、本研究の軸となる①財源確保のための最適な税体系、②格差是正のための所得再分配方法の視点から、継続して消費課税(VAT先進諸国の議論の追跡)・所得課税(個人所得では所得再分配に基づく税制、法人所得では現行の大企業優遇税制やIT巨大企業の課税逃れに係る議論)の検討を深める。とりわけ、課税根拠となるPE等を進出先国に設ける従来型企業と、デジタル事業により、進出先国にPE等を設けることなく、無形資産等を軽課税国に移転することで課税を逃れる企業とでは、担税力に基づく公平な税負担が行われていない現状にあり、デジタル化・グローバル化の進む今日において、ますます深刻化するため、本研究①・②に関連する重要な課題である。 以上の様なこれまでの研究成果に加え「持続的で安定した社会の実現」に基づく諸課題について、租税が発揮する効力の検証を行う。その際、過年度で積み残した英国のベーシックインカムワーキンググループ(working group to investigate universal basic income)公表資料の論点整理へも取り組んでいきたい。引き続き、現地資料収集には英国の研究所(The Royal Society for the Encouragement of Art)の協力を得る予定である。 社会状況が許せば、国際学会への参加・現地調査等も再開し、国内外の学会(Global Conference on Environmental Taxation、税務会計研究学会、租税実務研究学会等における)報告を通じて得た知見を参考に、最終報告へ向けて纏め・論文投稿を行う予定である。
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Causes of Carryover |
2021年度において予定していた国際学会出張・現地調査に行くことが困難な社会状況であったこと、加えて現地調査で得た資料等の整理・データ化に伴う人件費等として予定していた金額分が未使用となったことから、次年度使用額として繰り越されることになった。
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