2018 Fiscal Year Research-status Report
知的障害者を中心とした言語的困難を抱える人々の情報保障のあり方に関する学際的検討
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18K12987
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Research Institution | Shukutoku University Junior College |
Principal Investigator |
打浪 文子 淑徳大学短期大学部, その他部局等, 准教授 (30551585)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 知的障害 / 障害者福祉 / 情報保障 / わかりやすい版 / やさしい日本語 / 合理的配慮 / 権利擁護 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、言語的弱者の立場におかれる人々の情報保障およびコミュニケーション支援の社会的普及と拡大に学術的に資するために、情報のバリアが大きくなりやすい知的障害者の情報保障に焦点をあてて、以下の3つの小課題を追究するものである。小課題1:知的障害者への「わかりやすい」情報保障と「意思決定支援」との関連の追究、小課題2:言語的弱者の情報保障の共通性および連携可能性の質的検討、小課題3:「わかりやすい」日本語による情報保障の社会的普及のための理論構築と社会福祉学の諸分野への提言。 小課題1:複数の福祉事業所に対して調査を依頼し、支援者が情報をわかりやすく伝えるための工夫に関する聞き取り調査、および当事者と支援者の説明場面等に関する記録調査を実施した。 小課題2:留学生および聴覚障害学生が同時に講義を受ける場を対象として、知的障害者向けに作成された新聞「ステージ」を用いたアンケートおよびインタビュー調査を行った。調査結果から、留学生・聴覚障害学生のわかりやすい情報へのニーズが明らかとなった。また、日本語に難しさを有する層に対する知的障害者向けの情報提供の有効性について示唆を得た。 小課題3:知的障害者と情報保障に関する先行研究の議論を合わせて現状と課題の整理を行い、情報保障と合理的配慮のあり方についての理論的な構築を体系的に行った。また、外国人向けの<やさしい日本語>との関連も合わせて議論した。これらの理論的検討は書籍として刊行した。 また、小課題1および2の双方に関連する新たな課題として、知的障害者の生活における健康や医療に関する情報保障についての課題を明確化した。2019年度以降、この派生課題にも取り組む予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
小課題1および2について、それぞれに調査先と調整を行い、予定していた調査を実施することができた。本来ならば小課題2については2年目に行う予定であったが、研究遂行にあたり極めてよい条件の整った調査先との調整が可能となり、前倒しで調査を計画し進行することができた。またその結果の一部を成果として学会で報告するところまで進展でき、当初予定していたよりも多くの成果を得ることができた。 また、小課題3は3年目に進行予定であったが、こちらも理論化が進み、これまでの研究実績と本研究の成果の一部を合わせて、書籍を2018年度中に出版することができた。 さらに、本研究と近い内容を有する、障害者向けの情報提供に関する検討を行う科研費研究グループ(研究代表者:八巻知香子「障害者への健康医療情報提供のあり方とヘルスリテラシー概念の再検討に関する研究」17H02618)との情報交換および意見交換を積極的に進めることができた。本研究小課題1および2の派生課題として、医療情報のわかりやすさに関する課題が挙がり、そちらにも着手し遂行できる見込みが立った。
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Strategy for Future Research Activity |
各課題について、以下のように研究を遂行する予定である。 小課題1:意思決定支援に必要な「わかりやすい」情報の同定と、情報提供のあり方の追究を行う。2018年度に取得した支援者と当事者の支援に関する意思決定および支援方針の確認場面等のデータについて、逐語録を作成し会話分析および社会言語学的観点からの分析を行う。2020年度にこれらの成果をとりまとめ、知的障害者の意思決定支援場面における「わかりやすい」文書のあり方に関して論文を執筆する。 小課題2:2018年度中の成果について、2019年度中に論文化する。また、論文化の際に導かれた課題に応じて、調査対象者の属性を絞った追加調査等を実施する。2020年度には、追加調査等の分析をとりまとめ、知的障害者向けの「わかりやすさ」がその他の言語的困難を有する群に有効であるか、および「わかりやすい」情報へのニーズの各群の共通性・相違姓について明らかにする。 小課題3:小課題1および2の進行と成果に連動しつつ、社会福祉分野に関する知的障害者と情報保障に関する体系的理論化に努める。また、言語的な困難を有する層に対する包括的な情報保障およびコミュニケーション支援のあり方について、行政や自治体の現状を踏まえたレビューおよび議論を進める予定である。 小課題1、2の派生課題:知的障害者の健康・医療に関する情報ニーズを同定するため、2019年度中に知的障害者・支援者・家族のそれぞれに対する聞き取り調査を進める。それらの成果に基づき、2020年度に医療情報に関するの「わかりやすい版」の試作を行い、そのプロセスおよび制作物を分析する。あわせて、「わかりやすい版」を用いた知的障害者以外の言語的な困難を抱える層への調査を行い、知的障害者向けの情報提供の汎用性を追究する。
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Causes of Carryover |
取得した研究データの諸処理に関する支出がずれ込んでいるため。(2019年度4~5月に解消予定である〉。
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