2018 Fiscal Year Research-status Report
触法女性障害者の支援において連携する社会福祉士と弁護士のジェンダー観に関する研究
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18K13001
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Research Institution | Miyagi Gakuin Women's University |
Principal Investigator |
松原 弘子 宮城学院女子大学, 教育学部, 助教 (40465654)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 社会福祉士と弁護士の連携 / 支援者の支援観 / 触法高齢・障害女性の支援 / ジェンダー・ステレオタイプ / 司法と福祉の連携 / 専門職の倫理 |
Outline of Annual Research Achievements |
この研究は、法に触れる行為をした高齢あるいは障害を持つ女性の支援に携わる弁護士と社会福祉士のジェンダー観が支援に与える影響を探ることを目的として、専門的な訓練を受けている支援者のジェンダー・ステレオタイプをインタビューであぶりだそうとする質的研究である。 2018年度はインタビューガイドの検討に時間を割き、研究協力者と定期的に情報共有及び議論を重ねて、調査課題を検討した。その経過を踏まえ、12月22日には研究協力者及び研究アドバイザーを交えたブレーンストーミングを行い、現在までの研究結果を共有して、今後の方向性を確認した。この時アドバイザーより、内在するジェンダー観をあぶりだすには、認知心理学のジェンダーに関する確証バイアスの先行研究を調べる方が良いという助言があり、また研究協力者からは、刑事司法領域に社会福祉士が組み込まれる「再犯防止の道具として社会福祉士が利用されるリスク」への懸念が大きな議論となっている現状が報告されて、本研究はこの議論の経過を追いながら進めていく必要があることが確認された。結論として、研究進捗を重視してインタビューを急ぐより、ジェンダー・ブラインドを言語データとして聴取するのに必要な質問づくりを十分行うことが確認された。そこで、心理学領域のメタ認知を探る先行研究の文献調査を行うことと、司法と福祉の連携に関する社会福祉士の専門性及び専門職としての倫理に関する議論の進捗をフォローしつつ、インタビューの範囲を再検討することとした。その結果、調査スケジュールが変更され、2019年度前半に専門性の確立に関する論点とジェンダー問題の関係を踏まえてインタビューガイドを見直し、その後国内調査を実施することとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
刑事司法領域で社会福祉士が働くことの倫理性の議論が活発に行われている中で、議論を無視してインタビューを行わない方が良いという判断と、東京社会福祉士会司法福祉委員会活動の傍聴等で、実践者のジェンダー観が予想以上にブラインド化されていることがわかり、インタビューガイドの再構成を行うことにしたことが、遅れを生んだ理由である。 平成28年に成立した「再犯の防止等の推進に関する法律」が具体的に施行されつつある中で、検察庁に社会福祉士が配置されるなど司法と福祉の連携が単なる職種間コミュニケーションを超え、制度化された社会システムとして動き始めている。この制度化に対して、現在、専門性が十分確立されていない社会福祉士が再犯防止のツールとして使われているという批判が大きくなっている。本研究では刑事司法ソーシャルワークに携わっている社会福祉士へのインタビューの質が重要となるため、議論の経過を踏まえたインタビューの時期を選んでいる。 また調査の一部として参加した2018年度司法福祉全国実践研究集会の議論で、研究者と実践者の倫理的課題の捉え方の厳密さに差があること、実践者は今目の前にいる人に具体的かつ現実に即応した支援を提供すべく行動することを優先し、その中の倫理的ジレンマをどのように合理的に捉えるかより、まず本人のために行動することが重要だと考える傾向があることが観察された。倫理的ジレンマは専門職の内面にある価値の葛藤であるが、ジェンダー観やジェンダー・バイアスもまた、自身の内面に深く根ざし意識化されにくい価値観である。このように意識されにくい価値観に焦点を当てるインタビューガイドには、現在用意しているガイドでは不十分であると判断し、調査を延期して質問構成を再検討している。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画では2018年度に国内のインタビュー調査、2019年度に海外調査を行い、2020年度に最終報告を行う予定であったが、現在は国内のインタビュー調査を2019年度に行い、2020年度に海外調査と最終報告を実施したいと考えている。渡航費用の関係などから、オリンピック後の2020年10月に海外調査を実施することとして、2019年度中は海外の研究協力者とスカイプ等のネットワークを用いて情報収集を行いたい。2020年10月に海外調査を行うことになったとしても、2020年度中に最終報告が行えるよう進行管理をするつもりである。この理由は、本調査では国際比較より国内の実態調査の比重が大きいことによる。海外の司法福祉領域の先行研究をレビューした結果、司法システム、福祉システムが大きく異なる海外との比較研究は興味深いが、本研究の成果を、日本国内の実践課題の解決に資するものにしたいと考えるのであれば、より重要なのは国内の支援者研究になると結論付けるに至った。比較対象としての海外調査は必要だが、まず日本の社会文化的背景及び価値観に基づいた女性支援のあり方を検討し、実践に資する知見を得て社会に還元することを優先すべきと考え、2020年度中に一定の成果報告を行うことを目標に研究を進めていく。 ただし、昨今のジェンダー問題に対する社会的関心の高まりや、司法福祉領域でのジェンダーに配慮した支援施策の発展、女性が多い依存症対策と犯罪の関係の研究など、本研究テーマに関連した社会施策、実践、研究の進捗の動きによっては、研究成果報告が2021年度に持ち越される可能性は残されている。
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