2020 Fiscal Year Research-status Report
触法女性障害者の支援において連携する社会福祉士と弁護士のジェンダー観に関する研究
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18K13001
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Research Institution | Miyagi Gakuin Women's University |
Principal Investigator |
松原 弘子 宮城学院女子大学, 教育学部, 准教授 (40465654)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 社会福祉士と弁護士の連携 / 司法と福祉の連携 / 支援者の支援観 / ジェンダー・ステレオタイプ / 専門職の倫理 / ジェンダー理解 / フェミニスト・アプローチ / 再犯防止 |
Outline of Annual Research Achievements |
この研究では、高齢あるいは障害などがあり福祉的支援を必要としながらも、何らかの法に触れる行為をしたことにより、司法的な処分を受けることになった女性の支援に携わる弁護士と社会福祉士のジェンダー観が支援内容に与えている影響を探ることを目的として、弁護士と社会福祉士に対して、それぞれの専門性に基づいた支援観に焦点を当てたインタビューを行い、支援の中のジェンダーバイアスをあぶりだそうと試みている。研究開始時には、弁護士や社会福祉士などの専門的な訓練を受けた有資格者の中に内在化された、社会的な価値観を背景にしたジェンダー・ステレオタイプが支援に影響を与えているという仮説を立てていた。現時点までの調査において、少なくとも社会福祉士については、ジェンダー差と支援内容の関連に焦点を当てるより、支援計画に含まれる地域や家族へのアプローチを聴く方が、支援内容に含まれるジェンダー観を見出しやすいことがわかってきた。また当初は支援者のジェンダー差(性別)にも注目していたが、ジェンダー観をあぶりだす目的に照らした場合、支援者の性別よりも、女性の支援は男性の支援とは異なるという意識を持って業務を行っている自覚があるかどうかをスクリーニングの基準としてインタビュー対象者を選ぶ方が、求めたい知見が得られる可能性があることが示唆されつつある。このように研究は徐々に進展しているが、2019年度3月以降のCOVID19感染症蔓延防止のため、2020年度は予定していた研究がほぼ進まないまま終了した。調査対象地である関東圏に出張できず、教育活動の全面的な遠隔化への対応なども影響した。2020年度に予定していた海外調査も実施できなかった。2021年度に可能であれば調査を行う予定ではあるが、渡航が引き続き困難であった場合は、国内調査と文献調査からジェンダー観が支援に与えている影響を分析したいと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
研究の遅れは、複合的な原因による。1点は、研究がターゲットとしている支援者のジェンダー観を定義化するのに時間がかかったことである。研究開始時は、支援する側の弁護士・社会福祉士が持つジェンダー・ステレオタイプと、本研究で用いている「ジェンダー観」をほぼ同義語としていた。しかし研究課題の議論を深める中で、ジェンダー・ステレオタイプが明確でない支援者であっても「女性支援におけるジェンダー観」に類する価値観が、家族観や地域(コミュニティ)観として保持されていることが多く、こちらにも焦点を当ててインタビューを行う必要性が見えてきた。焦点化に時間をかけた遅れは、探索すべきターゲットが明確になったという点で必要な遅れであったと考える。2点目の原因は2019年度報告でも挙げた、研究者自身の教育業務の増大である。2018年度の後半に生じた欠員は充填されない状態で2020年度も継続しているため、遅れを取り戻す前向きな変化は起きていない。3点目は感染症の拡大である。2020年度は感染症蔓延防止のための授業の遠隔対応や感染予防を徹底させた実習指導、学生に対する心のケアなど、今までにない教育活動の増大があったのみでなく、調査のための関東への出張の制限、経済的な困窮や給付の相談に対応する社会福祉関係者の業務の増加などで、研究について全く議論できない状況であった。その結果さらなる遅れが生じ、研究計画の延期のみでなく見直しを要する事態になっている。今後は、海外調査を国内調査に変更し、また、関東への出張によるインタビュー以外に、東北圏内でのインタビュー調査なども加えていくことも考えている。本研究は、日本国内の女性に対する支援において、司法と福祉の連携がより適切に行われるために必要な結果を得るのが目標である。当初の研究計画に掲げた目標が達成できるよう、できる限り現実的かつ有効な調査を試みていきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の研究計画は2020年度が最終年度に当たっていたが、2020年度は全く研究が進まず、1年間研究計画を延長した。2021年5月の本報告時点では海外調査ができる見通しが立っていないため、現実的な計画の変更として、海外調査を文献調査のみとして、東京都と南東北3県の2か所の調査でジェンダー観を比較する方法への切り替えを検討している。これまでの調査で、支援者のジェンダー観を批判的に検討するためには、個人のジェンダー・ステレオタイプに基づいた価値観だけに焦点を当てるのではなく、家族や地域の中でのジェンダー役割規範に基づく行動への期待についての支援者の認識も調査する必要があるという知見が得られている。日本国内において、女性の家族や地域における役割期待が中央と地方都市とでは異なり、地方都市の方がより既存の規範にとらわれた支援観を支援者が持っていると仮定するならば、都市と地方の比較によって、当初の調査目的に近づける結果が得られる可能性があると考えたためである。また、罪に問われた障害・高齢者の支援に弁護士と社会福祉士が連携する機会が増えていることから、社会福祉士に対する量的調査についても、実施可能かどうかを検討していきたい。海外調査を行うか、国内調査に代替するかの判断は、夏以降の感染症の拡大状況と、海外渡航や出張制限の緩和等の状況を見て判断する予定である。
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Causes of Carryover |
2020年度に行う予定だった海外調査(米国)を延期としたため、渡航費や現地調査のための費用が繰り越された。2021年度中に渡航可能となれば海外調査を実施する予定だが、海外調査が実施できない場合には、国内調査を1か所(関東のみ)から2か所(山形県、宮城県、福島県の東北3県を1エリアと考える)に変更して実施する。また、感染症対応に伴う研究者の教育業務負担の増加に対応するために、翻訳の依頼やインタビューデータの文字起こしなどを、必要に応じて外部委託することを検討している。
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