2019 Fiscal Year Research-status Report
現代米国の「複合的都市再生政策」の展開下における教育政策の位置と効果に関する研究
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18K13054
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Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
榎 景子 長崎大学, 教育学部, 准教授 (60813300)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 都市再開発 / ジェントリフィケーション / 教育政策 / 教育と福祉の連携 / ニューヨーク市 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究は、まず、昨年度の米国シカゴにおける現地調査で収集した資料の整理・分析を行い、その研究成果の一部を学会誌にてまとめるとともに学術図書として刊行することができた。そして、本年度の研究計画通り、米国ニューヨーク市の事例に着手し、主要な論者を選定して研究論文を整理・分析するとともに、当該研究者へのインタビュー調査を実施することができた。特に後者のニューヨークの事例調査については、主に次の3点で成果があった。 第一に、ニューヨーク市の都市政策に詳しいニューヨーク大学の研究者にヒアリング調査を行い、同市におけるジェントリフィケーションのメカニズムについて聞き取ることができた。ジェントリフィケーションのメカニズムは極めて複雑であることから、今後いかなる点に着目し、どのような調査、資料収集が必要であるか等の貴重な情報を聞き取ることができた点が大きな成果である。また、シカゴ市の動向との違いも明確になった。 第二に、ニューヨーク市におけるジェントリフィケーション下での学校の変容について研究しているシートンホール大学の研究者からは、学校・保護者・子どもの今日的課題について聞き取ることができた。聞き取り調査からは、研究上の視点・観点等についての重要な示唆が得られた。他方で、激しい社会変動への教員の対応戦略等については、十分な研究蓄積がないこともわかり、今後の調査課題が明確になった。 第三に、場所を基盤とした地域再生および教育・福祉の連携実践の草の根的な先進例であるハーレム・チルドレンズゾーンに関して、実践者から、その取り組みの具体的展開過程、プログラムの概要と方法、今日的課題、全米的な展開状況等を聞き取ることができた。 以上、収集できた資料等については、次年度の成果発表に向けて現在整理・読解・解析を進めているところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度は前年度のシカゴ調査の成果を学術図書の一部に組み込んで刊行できたことが最大の成果である。しかし、収集した資料の分析とその成果をまとめることに予想以上の時間がかかった。そのため、2つ目の事例であるニューヨーク市の分析へ着手する時期が遅くなった。 その後のニューヨーク市の研究はきわめて順調に進み、資料の収集およびインタビュー調査を実施することができた。都市政策に詳しい研究者から、教育学研究者、そして実践家まで、幅広く調査を行い、ニューヨーク市の政策・実践動向を把握するとともに、今後の調査対象や視点を明確化できた点で大きく研究が進捗したと考えられる。 しかし、これらの成果をもとにして、年度末に実施することを予定していたニューヨーク市への渡航調査は、新型コロナウイルスの世界的な流行により断念せざるを得なかった。研究対象地をおおむね絞ることができていたことから、実際に政策立案者、地域住民、教員等への直接のインタビュー調査を実施することを予定していたが、これらは来年度の実施に見送ることとなった。 新型コロナウイルスの流行はアメリカ全土で起こっているため、上記は調査対象地の変更等で対応できることではなかった。この点で、年度前半で得られた調査の収穫は大きかったとはいえ、当初の計画通りに研究が進んだとはいえず、研究の進捗としてはやや遅れているといわざるを得ない。
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Strategy for Future Research Activity |
新型コロナウイルス流行の影響により、2020年度の渡航調査は見通しが立っていない。そのため、ビデオ会議システム導入などの環境整備を早急に行うとともに、オンライン上で現地の研究者や実践家へのインタビュー調査を実施できるよう先方と連絡をとることにより、当初の予定をできる限り順調に進めていく予定である。 なお、年度前半(4~9月)に実施予定だった渡航調査を後半(10月以降)に延期することに伴い、年度前半は前年度までに得られたデータの解析とそのまとめに十分な時間を費やし、成果発表を行うよう予定を変更する。 さらには、本研究の分析対象地であるニューヨーク市における新型コロナウイルスの流行は極めて深刻な状況であることから現場の混乱も予想され、ビデオ会議システムを使った調査も順調に進むとも限らない。その場合は、事例検討の一部を断念し、当初予定していなかった周縁部分の理論分析も行うなど、本研究の比重を米国の理論的動向の広範な整理・分析にうつしていくことも視野に入れる。本テーマに関連する分析枠組みの理論的検討をより重点的に行うことで、新たな提起・次の研究につなげていけるような研究を目指す。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの流行により、予定していた渡航調査を実施することができなくなったため、旅費を使用することができなかったことが最大の理由である。加えて、前年度調査で得られた資料の分析とその成果報告に予想以上に時間がかかったことから、新規事例調査に向けた資料収集が遅れたことも、予定していた物品費の額を使用することができなかった理由である。 次年度使用額については、渡航調査およびビデオ会議システムのための環境整備等で使用する。渡航調査については、2019年度に調査できなかった分も含め、日数を延ばして実施できるよう調整する。なお、新型コロナウイルスが収束せず渡航が困難な場合も予想されることから、その場合は理論的分析・文献調査で使用する書籍購入や資料整理等の物品購入として使用する予定である。
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Research Products
(3 results)