2021 Fiscal Year Research-status Report
現代米国の「複合的都市再生政策」の展開下における教育政策の位置と効果に関する研究
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18K13054
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Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
榎 景子 長崎大学, 教育学部, 准教授 (60813300)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 場を基盤とした改革 / 包括的支援 / 教育政策 / ハーレム・チルドレンズゾーン / プロミス・ネイバーフッドイニシアチブ |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、前年度までに収集した資料の読解・解析を進め、理論的な示唆を得ることを目指した。具体的には、米国ニューヨーク市のハーレム・チルドレンズゾーン(以下HCZ)の取組および関連する連邦政策(Promise Neighborhood Initiative)の動向を、現代アメリカ教育をめぐる「場を基盤とした改革(place-based reform)」として把握し、その特質と課題を明らかにした。特に「場」を基盤とすることの意味や課題について検討することは、包括的支援のあり方および複合的都市再生政策の意義と課題を検討する上で重要な示唆を与えうると考えた。 HCZでは、近隣地域全体を対象としたサービスの提供、ゆりかごからキャリアまでのパイプラインの構築、親・子ども・諸機関の間のコミュニティ構築等を通じた包括的支援を目指していた。その際に、「場」を基盤としていたのは、第一に領域別ではなく、包括的・総合的な支援によって集合的なインパクトにつなげること、第二に個人への支援からさらに一歩進んで、地域の文化変容につなげようとしていたことを指摘できる。ここには従来、個々の支援の後に再び厳しい環境に子どもたちが戻ることによって成果が無効化されてきたことへの危機感がある。子どもを支援しようとすれば、大人の関係、地域の文化から変わらなければならないと考えられているのである。 ただし、ここでの地域の文化変容を求める姿勢は、従来の「文化剥奪論」の等の議論にみられるような地域文化を全否定して新しく作り変えるものとも違うようにも思われる。プログラム創設者自身がこの近隣地域の出身であるように、地域の集合的アイデンティティは決して否定しないが、一方でこの地域で形成されてきた文化をリメイクしなければならないという意識がないまぜとなった内発的な運動である可能性がある。 以上の研究成果については、学会で報告を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度は、可能であれば当初予定していた渡航調査を実施することと、前年度までに収集した資料の読解・解析を進め、得られた成果をもとに学会発表および論文化を進めることを計画していた。 成果をまとめ学会発表を行うことができた点では予定通り進められたものの、学会発表で重要な指摘をいただいたことから追加調査・解析が必要となったことで、論文化は途中となっている。 また、新型コロナウイルス感染症の流行が長引いていることで、渡航調査は今年度も難しかった。その代替的な研究推進方策として周縁部分の理論分析を進めることとしていたが、「場を基盤とした改革」の意義と課題には迫れた一方、それを改革のより大きな文脈に位置づけるには至らなかった。 以上の通り、申請当初の研究計画からすれば、新型コロナウイルス感染症の流行が予想以上に長引いていることから、予定していた渡航調査は不可能となったままであり、その代替的な研究推進方策の実行という点では、その半分は遂行できたが十分とまでは言えなかった。このような点で、成果がまとまりつつあるとはいえ、当初の予定通りに研究が進んだとはいえず、研究の進捗としてはやや遅れていると言わざるを得ない。
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Strategy for Future Research Activity |
新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、2022年度の渡航調査も見通しが立っていない。オンラインでの追加調査を進めることも検討するが、今年度も新型コロナウイルス流行による研究者や実践現場への影響は大きく、研究協力者を探し調整すること自体が非常に困難であった。2022年度も同様の事態が予想される。 そのため、渡航およびオンラインでの追加調査の可能性を探りつつも、今年度までに収集した文献や資料を中心に、解析に引き続き注力していく。特に、すでに解析が完了している成果について論文化を進める。今年度、学会発表を行ったことで、研究者から解析への重要な指摘・アドバイスを得ることができた。これらを反映させ、さらに必要な資料収集・追加調査を進めながら、よりいっそう精度の高い理論化を目指す。さらに、今年度十分に遂行できなかった周縁部分の理論分析も進めていく。 以上、来年度は本科研の締めくくりとして、論文化を中心とした追加調査・解析と執筆作業を進める。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の流行が長引いていることにより、予定していた渡航調査が実施できず、また国内で学会発表を行ったもののオンライン実施だったことから国内旅費も使用する機会がなかった。他方で、これまでの資料解析を進めるにあたり、追加の資料収集が必要となり、それらに予算を使用した。しかしながら、全体として調査は予定通り進まず、成果としても十分なものをまとめるには至らなかったため、2022年度に研究期間を延長し引き続き研究を進めることとした。 2022年度も新型コロナウイルス感染症の流行により渡航調査の見通しは立っていない。国外への調査が可能となった場合は予算を渡航調査に充てるが、事態が急速に改善しない限りは、今年度同様、理論研究を中心に進めることとする。そのため、予算は必要な書籍代や印刷費等に充てるとともに、オンライン上のインタビューの文字起こしのために使用することとする。必要に応じてインタビュイーへの謝金に充てる。また、新型コロナウイルス感染症の収束状況によって学会等が対面で開催されれば、成果報告のための旅費に使用する。
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Research Products
(1 results)