2022 Fiscal Year Research-status Report
現代米国の「複合的都市再生政策」の展開下における教育政策の位置と効果に関する研究
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18K13054
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Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
榎 景子 長崎大学, 教育学部, 准教授 (60813300)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 場を基盤とした改革 / 「包括的な教育機会」保障論 / ハーレム・チルドレンズゾーン |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、複合的都市再生政策の草の根的展開として、前年度に引き続き「場を基盤とした改革」の理論的・実践的資料の収集と検討、さらにはそれら改革の理論的基盤となっている「包括的な教育機会」保障論の理論的検討を行った。 「包括的な教育機会」保障論は、子どもの教育達成に影響を与える要因を分析した諸研究の成果をもとに、恵まれない子どもたちが有意義な(meaningful)教育機会を得るためには、従来の教育政策の対象となってきた学校ベースの資源だけでは十分ではないと指摘し、追加の補完的資源として①幼児教育、②学習時間拡大プログラム、③身体的・精神的ヘルスケア、④家族の関与と資源の4点を保障することの必要性を指摘している。 同理論を検討したところ、その特質と意義として次の3点を指摘できた。第一に教育機会を軸として子どもに権利として保障されるべきサービス範囲の拡張が企図されていること。第二に、これを行政責任として保障していくために、包括的な教育機会を「基本的権利」として位置づけるための法的根拠が検討されていること。第三に、研究上の特質として、上記の2点に加えて、実現可能性を示唆する財政根拠の提示、および立法提案につなげるための政策基盤ガイドラインの策定が行われ、それらがパッケージとして提示されることで政治的対話を促そうとしていることである。 他方、包括的で切れ目のない支援が制度的に用意されたとしても、それが必ずしも必要とする人に届くとは限らない。なぜなら人は置かれた状況によっては、自ら権利を放棄することもあるからである。だがハーレム・チルドレンズゾーンでの実際の運用を確認したところ、制度を人々の生活世界につなぐための様々な働きかけがなされていることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度も、可能であれば当初予定していた渡航調査を実施することを計画していた。だが、新型コロナウイルス感染症の流行は依然として収まらず、渡航先でも受け入れに制限がかかっていたことから、渡航調査を断念せざるを得なかった。 その代替的な研究推進方策として、昨年度に引き続き周縁部分の理論分析を進めたが、その一部は報告書としてまとめることができたものの、得られた資料等について論文化が途中のものもある状況である。 以上の通り、申請当初の研究計画からすれば、新型コロナウイルス感染症の影響で予定とは大きく異なる方向で研究を進めなければならない状況が続いており、代替的な研究推進方策の実行という点では、一部遂行できたが十分とまでは言えなかった。このような点で、当初の予定通りに研究が進んだとはいえず、研究の進捗としてはやや遅れていると言わざるを得ない。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、すでに収集した文献や資料を中心にして、引き続き解析および論文化に注力していく予定である。現在、すでに投稿を予定している論文があるため、そのブラッシュアップに努める。以上により、来年度は本科研の締めくくりとして、論文化を中心とした分析作業を進める。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の流行が長引いていることにより、予定していた渡航調査が実施できなかったことから、旅費は国内学会等で使用するにとどまった。他方、これまでの資料解析を進めるにあたり追加の資料収集およびデータの文字起こしが必要となったため、それらに予算を使用した。 しかしながら、資料の解析および追加の資料収集等により、成果をまとめるのに時間がかかっていることから、2023年度に研究期間を延長し引き続き研究を進めることとした。 2023年度は、論文の精度を上げるための資料収集・解析を行いつつ、論文化を進めることを中心とするため、予算は主に書籍代にあてるとともに、成果報告等のための国内旅費として使用する予定である。
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Research Products
(5 results)