2018 Fiscal Year Research-status Report
「~し直す」行為の成長モデルに対する批判的検討:レヴィナスの他者論から
Project/Area Number |
18K13064
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Research Institution | Ibaraki Christian University |
Principal Investigator |
安喰 勇平 茨城キリスト教大学, 文学部, 助教 (20802862)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 「~し直す」 / エマニュエル・レヴィナス / 反省 / 教育哲学 / 教育思想史 / 教師教育 / 道徳教育 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年の教育学において、「語り直す」、「見つめ直す」、「学び直す」などの「~し直す」行為によって特徴づけられる成長モデルの重要性が広く認められている。しかし、その成長モデルに理論的困難が潜在することが指摘されてもいる。本研究は、この「~し直す」行為の成長モデルに潜在する理論的困難の原因を明らかにし、かつ、その困難を解消するための方策をレヴィナスの他者論に関する考察(とりわけ「前言撤回」概念)から導出することである。 初年度である2018年度は、主に以下の2つの課題に取り組み、成果を挙げた。 まず「~し直す」行為の成長モデルの研究動向を、主に教師教育と道徳教育の領域に着目し、整理した。一方で教師教育では、「学び直す」という言葉で、教師の成長が生涯学習の観点で強調されている。他方で道徳教育では、「見つめ直す」や「捉え直す」という言葉で、他者との出会いを通して、自身の道徳観を反省し、新たな道徳観を構想することの重要性が説かれている。どちらの領域においても共通しているのは、今後の見通しのつきにくい社会状況に応じた成長を、他者との出会いを通して遂げようとする方向性である。 またレヴィナスの反省に関する論述を整理した。レヴィナスは、「自身の認識の限界を認識する」という反省のあり方のうちに、ある理論的困難を見出している。その困難は、「自身の認識の限界を認識する」という仕方で、結果的にその認識の力を強固にする、というものである。レヴィナスは、この困難を乗り越えるために、反省の契機としての他者との出会いを位置付けつつ、自身の論述が、その批判対象に取り込まれないように論述を展開する。 以上のように、「~し直す」行為の成長モデルのうちに、他者との出会いをいかに位置づけ、それをどのように理論化できるか、丁寧に議論を進める必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
やや遅れているとする理由は次の2点である。まず、2018年度中に研究成果を論文化できなかった。しかし、年度末に投稿し、再査読の判定を受けた論文があるので、加筆・修正を加え、論文化することで、この遅れは取り戻すことができると考えている。また、専門的知見の提供を受けることを計画していたが、未だ実施できていない。これは一点目と関連するが、論文をベースに自身の見解を説明した上で、専門的知見の提供を受けようと考えていた。その論文が掲載され次第、この点も補うことができると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度は、レヴィナス他者論に関する考察に比重を置いていく。特に「前言撤回」概念の基礎的な研究が中心となる。その際、レヴィナスの言語論関連の研究のレビュー及び、レヴィナス言語論と近い問題関心のもと研究の進展しているポストコロニアリズム研究のレビューを中心とする。ただ、レヴィナスの言語論は、レヴィナスが言語について主題的に論じる内容面と、レヴィナスが論述する際の言語の用い方としての方法面の両面から検討する必要のある特質を有している。そのため、彼が主題的に言語について論じている部分に過度に執着することなく、本研究の内容に関連する「反省」や「目覚め」というキーワードに注目しつつ、研究を進めていきたい。
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Causes of Carryover |
概ね計画通りの使用額である。次年度使用が生じたのは、旅費と人件費・謝金である。研究成果の論文化の作業に遅れが出たため、2018年度に専門的知見の提供を受ける機会を設けることができなかった。しかし、現在学術雑誌に投稿し、再査読の評価を受けたものがあり、それを加筆・修正している段階である。その論文をベースにして、専門的知見の提供を受ける機会を2019年度中に設け、旅費と人件費を使用する。
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