2019 Fiscal Year Research-status Report
「~し直す」行為の成長モデルに対する批判的検討:レヴィナスの他者論から
Project/Area Number |
18K13064
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Research Institution | Ibaraki Christian University |
Principal Investigator |
安喰 勇平 茨城キリスト教大学, 文学部, 助教 (20802862)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 他者論 / エマニュエル・レヴィナス / 「~し直す」成長モデル / ジュディス・バトラー / 誇張法 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年の教育学において、「語り直す」、「見つめ直す」、「学び直す」などの「~し直す」行為によって特徴づけられる成長モデルの重要性が広く認められている。しかし、その成長モデルに理論的困難が潜在することが指摘されてもいる。本研究は、この「~し直す」行為の成長モデルに潜在する理論的困難の原因を明らかにし、かつ、その困難を解消するための方策をレヴィナスの他者論に関する考察から導出することである。 2年度目である2019年度は「~し直す」行為の成長モデルの理論的困難の原因をジュディス・バトラーの議論に依拠しつつ分析し、また、その困難を乗り越える方途をエマニュエル・レヴィナスの他者論の論述方法を参照しつつ検討した。その結果、以下の2点が明らかになった。まず、「~し直す」行為の成長モデルの背景には、「自己の認識能力の限界を認識し、他者を承認する」という筋立てがあることが明らかになった。この筋立てに沿って論述を展開することは、認識能力の限界を論じつつも、それと同時に、その限界さえも認識することのできるほどのより強力な認識能力を前提とした自己矛盾を含む論述を行うことに帰着するのである。次に、この自己矛盾を含む論述を回避する試みとしてのレヴィナスの誇張法に注目することを通して、認識能力の限界を認識することの重要性を説きつつ、その論述によって、読者の認識に対して変更を迫るような論述方法の可能性があることを明らかにした。 また上記の成果を踏まえた上で、レヴィナスの論述に見られる工夫としての隠喩にも注目した研究成果を残した。特に彼の「眠り」と「目覚め」に関する記述は、本研究において重要な位置を占めており、最終年度でも引き続き検討する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
バトラーとレヴィナスの議論を参照し、「~し直す」行為の成長モデルを批判的に検討した成果を、論文化(査読付き)することに成功したことが理由である。またその成果を踏まえた議論にも着手し、その成果について学会発表を行い、論文化することもできた。ただし、新型コロナウイルス感染症の影響で、3月上旬に参加予定だった国際学会へ参加できなかったため、本研究に関連する国際的な研究動向を十分に調査できていない。この国際的な研究動向の調査不足に関しては、外国語文献の精読を通じて補う。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度である2020年度は、2019年度の成果をより洗練させた上で、その成果をより広く学会で発信する。具体的には、ラウンドテーブルやコロキウムを企画することで、近い問題意識を有している研究者らとの研究会を重ね、研究の洗練を図り、かつ、成果を広く発表することで他研究者から意見をいただく機会とする。 新型コロナウイルス感染症の流行の影響で、海外への渡航が困難となる可能性が高い。そのため、状況に応じて、国際的な研究動向を調査するために、外国語文献の精読に重点を置くことを視野に入れている。とりわけ、英米圏の教育哲学研究の動向のうちに本研究を位置づけるために、英米圏の教育哲学関連の書籍の精読を計画している。
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Causes of Carryover |
3月末に参加予定だった国際学会への参加を、新型コロナウイルス感染症の影響で取りやめざるをえなくなったことが理由である。アメリカ・ピッツバーグで開催予定だった学会だったので、学会参加費、航空券の費用、宿泊費などは大きな額になっていたが、その額が今年度使用額として計上されていない。これら次年度使用額は、今後も海外渡航の難しい状況が続くことが予想されるため、国際的な研究動向を調査するための書籍費及び、研究用の物品購入に充てることとする。
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