2021 Fiscal Year Research-status Report
社会的な課題を教材化する教師の授業実践に関するライフストーリー研究
Project/Area Number |
18K13155
|
Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
村井 大介 静岡大学, 教育学部, 講師 (80779645)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 授業実践 / 社会的な課題 / 教材化 / 教師 / ライフストーリー / 実践記録 / 実践習慣 / ESD |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、授業で環境や平和、人権等のESDとも関連の深い社会的な課題を取り上げる際に、教師はどのように課題への切実さや見方・考え方を深めて、希望(=実現したい願い)を形成しながら、授業を開発し実践してきたのかを明らかにすることである。 研究の4年目にあたる2021年度は、①文献に掲載されている実践記録をもとにした分析、②これまでの調査結果の体系化、③新型コロナウイルス感染症の影響により実施できていなかったインタビュー調査の実施、の三点を主に行った。 具体的には、①については、社会的な課題として災害を取り上げてきた三つの授業実践記録を分析した。分析した実践は、行われた時代や、災害の種類、災害と授業までの時間的・空間的な距離、児童生徒の被災状況などは互いに異なっていた。その一方で、三つの実践の共通点として、第一に自然災害を機に顕在化した社会の脆弱性を問題提起し追究していること、第二に自分とは異なる「他者」と出会い、「他者」の視点から社会を捉え直していること、第三に授業を通して子どもが何かを実現したいと願う社会的な希望を形成していること、という災害を取り上げる際の手がかりとなる点を明らかにした。以上の研究成果は、『考える子ども』への論文で公表した。 ②については、研究の1年目に既存の文化資本・社会関係資本の論を参照しながら教師の実践習慣の特徴を分析したが、こうした教師の資本という視点が教育課程の変化の中で大学の教員養成の場でもつ意義について考察を深めることができた。このことについてまとめた論稿は、2022年度中に出版物の中で公表する予定である。 ③については、これまで十分に聴き取ることのできていなかった小学校教員3名を対象にインタビュー調査を実施した。新型コロナウイルス感染症の影響により年度末に調査を実施したため、年度内に分析は完了しなかった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
年度当初の予定通り、インタビュー調査を実施し、対象とする学校種や取り上げる社会的な課題の幅を広げることができた。ただし、新型コロナウイルス感染症の影響により、調査の実施が年度末になってしまったため、調査結果の分析や研究成果の公表までは、年度内には実施できなかった。そのため、研究期間の延長を申請するとともに、調査を継続するための研究倫理の手続きを行った。 年度当初の予定では、a)社会構造と教師の実践の関係、b)教師の実践習慣と社会問題の教材化、の二点も考察することにしていた。a)については、社会的な課題として災害を取り上げてきた授業実践記録を分析することを通して、時代や事象、児童生徒の状況が異なっていても、社会の脆弱性に目を向け問題提起をするという、社会構造と教師の実践の関係の一端を明らかにすることができた。また、b)については、社会問題を教材化できるような実践習慣を教員養成・研修の場で身に付けられるようにする上でも、教師の文化資本・社会関係資本といった視点に着目することが鍵になることを明らかにした。 以上のように、おおむね当初の予定通り順調に研究を進めることができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策として、研究の最終年度である2022年度は、2021年度に実施したインタビューデータの分析を行うとともに、これまでの調査結果を総合しながら深め、研究成果を学会での口頭発表や学会誌への投稿等を通して公表する。 研究成果をまとめる際には、これまでと同様に、①取り上げる社会的な課題を如何に選択してきたか、②取り上げる社会的な課題に対する切実さを教師自身は如何に形成したか、③取り上げる社会的な課題に対する見方・考え方を如何に深めてきたか、④授業で社会的な課題を取り上げることを通して実現しようとしてきた願いは何か、⑤社会的な課題を教材化する際にどのような工夫や配慮をしてきたか、の5つの視点に着目する。事例間を比較することで、教師が社会的な課題を扱う授業実践を行うまでの経緯と教材化の視点の特徴、教師自身の変容過程を明らかにする。これと同時に、これまでの探究で得た知見から、a)社会構造と教師の実践の関係、b)教師の実践習慣と社会問題の教材化、の二点も考察する。 特に、2022年度は研究の最終年度として、これまで分析してきたインタビューデータや実践記録を総合し、事例間の共通点を探ることを通して、社会的な課題を授業で取り上げる上で教師に求められる専門性の内実を明らかにする。このことを通して、教育実践の特徴を解明するとともに、教員養成へも示唆を提示できるようにすることを目指す。
|
Causes of Carryover |
年度当初の予定の通り、2021年度にインタビュー調査を実施することができたが、新型コロナウイルス感染症の影響により調査の実施は年度末になってしまった。そのため、調査結果の分析と公表が完了しなかったため、次年度使用額が生じた。 調査結果を分析し、研究成果を口頭発表や投稿論文で公表していく際の備品及び諸経費(プリンタートナー、分析ソフト、学会参加費、旅費、発表資料印刷費、英文校正費等)として使用する予定である。
|