2019 Fiscal Year Research-status Report
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18K13186
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Research Institution | Hakodate National College of Technology |
Principal Investigator |
須藤 絢 函館工業高等専門学校, 一般系, 准教授 (90780693)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 数学教育協力 / メタファー / 正負の数 / 数直線 |
Outline of Annual Research Achievements |
数学的概念の中には、実際の事象や経験を例えに用いること、言い換えるとメタファーが必要不可欠な単元がある。しかしながら、数学学力の向上が喫緊の課題となっているアフリカ諸国において、メタファーを軸とした研究はなされてこなかった。このような中、研究代表者はメタファーを必要とする抽象的概念である正負の数と加減を取り上げ、アフリカ諸国の 低い数学学力の一端にメタファーが機能していないという仮説のもと調査を実施してきた。その過程において、数を直線上の点とみなすメタファーが計算技能に大きな影響を与えていることが分かってきている。例えば、正負の数の加減の計算テストの結果は同程度であるものの、0と1000のみを表示した数直線上の真ん中に示した矢印に対して、半分であるので500と概算ができる生徒と、0から自分の尺度でカウントしていく生徒がいる。そのような数直線の捉え方の違いと計算技能の関係を捉えるため、該当年度9月に数直線を使用した正負の数の実験授業を行った結果、数直線上で概算ができる生徒の方が計算テストの結果が向上することが分かった。しかしながら、インタビュー調査では数直線をどのように捉えるかを数量的に測れないため、数直線に関する先行研究を様々な分野から調べなおした。その結果、発達心理学分野においては、「数直線課題」として数直線上の数の見積もりは発達段階に応じて変化していくことがすでに研究されていることが分かった。数直線課題は、左端に0、右側に100などが書かれた数直線上において、提示した数の位置と見積もりとの差異を計算式により具体的な数に落とし込むことができ、数直線課題によって、数と量の理解を形成する心的数直線の形成過程が捉えることが出来ると言われている。そこで、これまでのメタファーという視点に加え、「数直線課題」を援用し、より詳細に生徒の概念理解の様相を明らかにする調査紙の作成を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は、数を直線上の点とみなすメタファーの有無や、正負の数の計算技能と数をどのように直線上の点として捉えているかの関係を明らかにすることを通し、アフリカ諸国の低い数学学力の一端を明らかにするものである。その研究の性質上、アフリカ諸国による現地調査は必要不可欠であり、現地調査が研究の進捗にも大きく影響する。しかしながら、新型コロナウィルスの影響により、当該年度3月に予定していた現地調査は中止となった。そのため、本来の計画と比べると3月の現地調査が出来なかった分の遅れが生じている。 それまでの当該年度の進捗としては、9月にザンビア共和国にて現地調査を実施することができ、数直線の捉え方と計算技能の関係性についての調査データを得ることができた。そして、その分析から、数直線上の数に対して、例えば0~1000を表示した数直線の真ん中が500であることの概算が出来ることが、計算技能と関連していることなどが明らかになった。また、新たに発達心理学分野における数直線課題や心的数直線に関する先行研究を調べなおし、3月に予定していた現地調査の調査紙作成を行った。3月の現地調査は、ザンビア共和国の他にも、ウガンダ共和国にて同様の調査を実施するとともに、現地マケレレ大学教員との共同研究の打ち合わせを持つ予定であった。 その他の進捗として、ザンビア共和国現地協力者のチレヤ氏とともに、それまでの研究結果をザンビアの学術誌である「Zambia Journal of Teacher Professional Growth (ZJTPG) 」に投稿することができ、12月に受理されている。 また、当該年度では、はこだて未来大学の藤野教授、バゲンダ准教授と共同研究をすすめることができており、時間的制約の多いアフリカ諸国を対象とした現地調査に対して、ICTを利用した現地調査の効率化に関する研究に着手することができている。
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Strategy for Future Research Activity |
新型コロナウィルスの影響により、当該年度3月に予定していた現地調査が出来なくなったため、新たな調査データの取得が出来なかった。そのため、海外渡航が可能になるまでは、大きく次の2点について、研究を進めていく予定である。 1点目は、これまでの調査データの分析を深め、研究論文として投稿していくことである。当該年度に論文として受理された内容は、現実の事象をメタファーとしたと正負の数の概念理解とその加減の計算技能の関係や、数直線に頼る計算過程の様相、誤答例の詳細に言及したものであるため、数直線上の概算や見積もり方に関する詳細なデータ分析の結果を投稿していく。また、現在までザンビア共和国、マラウイ共和国、ウガンダ共和国と3か国に渡って同様の調査を実施しているため、それそれの国のカリキュラムやシラバス、現地調査結果を踏まえた国ごとの分析をしていく予定である。 2点目は、はこだて未来大学の藤野教授との共同研究による現地調査の効率化である。アフリカ諸国における現地調査では、どうしても時間的制約が大きくなるため、例えば、300人に計算テストを実施し、その計算結果を簡易分析した後、計算技能の高い生徒や低い生徒を抽出する作業だけでも数日の日数を要することは珍しくない。そこで、生徒の記入した計算テスト結果を自動採点するシステムを、画像処理や機械学習を利用して構築していく。また、今後行う予定である数直線課題においても同様に効率化を模索していく。先行研究による数直線課題の調査方法は、実際の紙を何枚も用意し、紙に書いた生徒の見積もりと実際の長さを比較し、その結果を数式に当てはめるなど時間を要する。そこで、時間的制約が大きいアフリカ諸国現地調査に向け、タブレットを使用した効率的調査方法を構築していく。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルスの影響により、3月に予定していた現地調査が中止となったため。
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Research Products
(5 results)