2018 Fiscal Year Research-status Report
自閉スペクトラム症の児童にソーシャルシンキングは教えられるか?
Project/Area Number |
18K13212
|
Research Institution | Teikyo University |
Principal Investigator |
稲田 尚子 帝京大学, 文学部, 講師 (60466216)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 自閉スペクトラム症 / 認知行動療法 / ソーシャルシンキング |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、知的障害のない自閉スペクトラム症(autism spectrum disorder: ASD)に対して児童期から実施できる、ソーシャルシンキングのプログラムの開発を行い、その有効性を検討することを目的とする。ソーシャルシンキングとは、米国でミシェル・ガルシア・ウィナーによって開発され、人が他者と関わる際にどのようにふるまうべきかについて考えることであり、また、自分自身のふるまい方に他者が与える影響、自身の言動に対する他者の応答、および自分自身の感情、について考えるための枠組みである。心の理論の障害、中枢性統合の脆弱性、実行機能の障害など、ASDの認知障害仮説に基づき、楽しいアクティビティを通してスモールステップで体験的にソーシャルシンキングを指導するための多様なカリキュラムがある。本研究では、それら多様なカリキュラムを参考にしながら、他者の視点取得について基軸となるものを抽出し、パッケージ化する。 本研究において、2018年度に開発したプログラムは、1回90分全6回で構成され、4~6名の少人数グループで実施する。セラピストは、リーダーが1名、コリーダーが2名の計3名である。『きみはソーシャル探偵』(ミシェル・ガルシア・ウィナー著, 稲田・三宅訳,2016)の絵本あるいは作成したワークシートを用いて、また各回の内容に応じたグループワークやゲームを取り入れながら、授業形式で実施する。2018年度は、ASDの児童4名を対象として予備的な検討を実施し、ワークシートおよび実施マニュアルの改訂を行い、2019年度の本試験の準備が整った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ソーシャルシンキングのプログラムの効果検証のための本試験は2019年度に予定しており、2018年度は当初の計画通り、プログラムを開発し、予備調査を実施し、本試験への準備が整った。2018年度は、ソーシャルシンキングの中核的なガイドラインである「Thinking About You and Thkinking About Me」の日本語翻訳が完了した(稲田・黒田監訳,2018)。これにより、共同研究者や研究協力者にもソーシャルシンキングの概念の共有が容易になった。 2018年度は、ソーシャルシンキング以外にプログラムの中に他者の視点取得を促す内容を知るために、PEERSプログラムの研修に参加した。複数の指導方略を検討した上で、1回90分全5回で構成され、4~6名の少人数グループで実施するプログラムを開発した。小学4年生および小学5年生の4名(男:女=1:3)を対象として、予備的に全5回を実施した。プログラム実施後、参加児童およびその保護者からはポジティブな意見・感想・報告があった。その結果、ワークシートや実施マニュアルの改良点が明確になり、修正を行った。効果判定の指標の選定は完了し、対象同定のための自閉症診断検査第2版(Autism Diagnostic Observation Schedule Second Edition:pectrum disorderADOS-2)の実施者養成も順調に進展している。2019年度の本試験に向けて、準備がおおむね整った。
|
Strategy for Future Research Activity |
2019年度は、開発したプログラムの本試験を実施し、その有効性を検討することが目的となる。(方法)参加者:介入群は病院や障害児支援施設より紹介を受ける予定で、12名程度。対照群も同数予定している。手続き:1回90分で全5回とする。帝京大学または関連研究施設で実施する。効果判定指標:プログラムの前後および1ヶ月後に、保護者に対人応答性尺度(Social Responsiveness Scale:SRS)を実施する。児童に各回の理解度を尋ねるとともに、ソーシャルシンキングダイナミックアセスメントを実施する。ソーシャルシンキングダイナミックアセスメントとは、他者の視点取得スキルについてのインフォーマルなアセスメント手法であり、プログラムに関連する部分を抽出して実施する。効果判定が、フォーマルアセスメント、インフォーマルアセスメントの両側面からなされることにより、より多面的な評価が可能となる。
|
Causes of Carryover |
2018年度は所属先の異動により、研究協力体制の再構築にやや時間を要したため、人件費の使用開始が遅れた。一方で、2019年度は、本試験を実施するため、研究をコーディネートする科研費研究員相当の雇用が必要と考え、2018年度後期からは次年度を見据え、人件費を使用せずに計画的に繰り越した。よって、2019年度は繰り越し分と当初予定していた予算と合わせ、今年度は満額使用予定である。また旅費に関しては、予定していた海外の学会参加も次男(当時4歳)の急病により参加を見送った(キャンセル料は自己負担)。このような事情が重なり、当初の支出計画より少ない支出となったが、2019年度に精力的に学会等に参加し、研究成果を発表する。2018年度の研究はプログラムの開発及び予備試験であったため、おおむね順調に進展している。
|