2018 Fiscal Year Research-status Report
被害者のエージェンシー認知に基づく被害者理解フレームの検討
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18K13266
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
橋本 剛明 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 助教 (80772102)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 被害者イメージ / 心の知覚 / 被害者非難 / 公正世界信念 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、侵害場面における被害者への態度を形成する際に、人々が用いる解釈フレームワークの構造を解明することを目的とする。具体的に、「被害者」という役割に結びついた既有のイメージと、それに対応した「心の知覚」を被害者にあてはめて、人々は被害者の行動や心理を理解するという想定のもと、実証的に検討する。 2018年度には、まず被害者知覚に関連する関連領域の既存知見を精査した。「心の知覚」のほか、ステレオタイプや非人間化(dehumanization)といった対人認知に関わるテーマ、および被害者非難(victim derogation)に関する実証研究など幅広くレビューし、被害者に関する態度構造への寄与が認められる諸概念の整理を行った。当該年度中には、その成果を日本社会心理学会で大会のワークショップにて登壇し報告したほか、「心の知覚」と道徳判断の概念的関連についての考察を執筆した章を含む書籍が刊行された。 同時に2018年度には、被害者非難をテーマに過去に実施した調査(一般サンプル200名対象)のデータを分析した。その結果、被害者との類似性が高い場合には、公正世界信念が強い個人ほど被害者の特性を好意的に評価するが、その一方で被害者自身に責任を帰属しやすく、支援意図も低いことが明らかになった。これは、公正観が、「被害者解釈フレーム」の規定因として大きな役割を担うという点を指摘する実証知見であり、そのような解釈フレームについての統合的理解を構築しようとする本研究課題にとって、重大な示唆を与える成果であった。この知見については、2018年度中に国際学会にて報告し、関連領域の専門家と、その意義ならびに今後の研究の推進方策について議論した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2018年度には、研究遂行に関わる基盤的知識の獲得・整理を目的として、人々が有する「被害者」イメージの解明に資すると考えられる先行研究を収集し精査した。そして得られた知見から、「被害者」解釈フレームの構造化が進められた。この成果が学会での報告や分担執筆書籍の刊行につながったという面を踏まえても、当初の目的の大部分が達成されたと考える。また一方で、既得の調査データを再検討する過程の中で、人々の公正観が被害者非難に関与することが見出された。この知見は当初予期していなかったものであるが、本研究で解明を目指す被害者イメージの構造にとっては重要な要素であると判断される。この結果を受け、現在は、理論モデル内に公正観の要因を組み込み、当初予定していた検討範囲を拡張する方向で、実証的検討に向けての準備を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度では、前年度に得られた知見を基盤に据えて、人々が持つ被害者イメージを実証的に検討するフェーズとなる。 具体的な研究課題として、まず、被害者イメージを「心の知覚」の側面から測定する項目を設計し、調査を実施する。この調査は、年度の前半に、一般サンプルを対象としたウェブ調査の形式で実施が予定されている。 次に、開発した調査項目をもとに、被害者が侵害場面においてとる各種の「対処方略」と被害者のエージェンシー特性知覚との対応関係を明らかにする。この課題は、年度の後半において、一般サンプル対象のウェブ調査と、大学生サンプル対象の実験を併用して遂行することが計画されている。
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Causes of Carryover |
研究開始当初は、2018年度の後半に、被害者イメージを測定する調査項目を設計し、その妥当性を確認するための調査の実施を予定していた。しかし、当該年度中に既有のデータを再分析した過程において、公正観の要因が被害者への態度に影響を与えるという点が確認されたため、当初の理論モデルを拡張し、公正観を要素として組み込むことが有意義と判断された。その結果、2018年度に使用が当初見込まれていた予算のうち、調査票の設計とウェブ調査にかかる費用(50万円)を、2019年度に使用する計画となる。これに加えて、2019年度予算には、年度の後半におけるウェブ調査(30万円)と実験(参加謝金として20万円)にかかる費用が含まれる。
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Research Products
(7 results)