2021 Fiscal Year Research-status Report
被害者のエージェンシー認知に基づく被害者理解フレームの検討
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18K13266
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Research Institution | Toyo University |
Principal Investigator |
橋本 剛明 東洋大学, 社会学部, 准教授 (80772102)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 被害者イメージ / 被害者非難 / エージェンシー / 心の知覚 / 公正 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、「被害者」とされる立場に対する、人々の態度形成フレームをモデル化することを目的としている。2021年度は、過年度までの成果をベースに、モデルの実証的な検討を行った。具体的には、被害者が被害発生後にとる「対処方略」が人々にどのように評価されるのかを、「心の知覚」の側面から検討するための実験を実施した。実験参加者には、個人が被害を受けるシナリオ(e.g.,事故にあう)を提示し、被害者への態度を評定してもらった。その際、シナリオ中で被害者がとる事後的な反応を実験的に操作した。一般サンプルを対象にオンラインで実験を実施し、575名から成るデータを分析した。この実験から示唆されたのは、被害者が加害主体への非難や抗議を表明する描写があると、被害者への好印象や共感が高められるということである。そして、そのような効果は、被害者は意思が強いというエージェンシーの心的特性が知覚されることによって媒介された。この知見は、人々が「か弱い被害者」よりも「強い被害者」という像をポジティブに捉える傾向があることを示している。本来は救済の対象となるべき被害者に対して、自助努力が推奨され、ときに被害者非難が生じることの背景要因を示唆する知見である。引き続き、知見の頑健性や現象の境界条件を調べることが目指される。 上記に加えて、2021年度には、不公正に対する第三者的反応を勢力感という要因で検討した論文(Hashimoto & Karasawa, 2021)、公正感受性と集団内の協力行動との関連を検討した論文(Tham, Hashimoto, & Karasawa, 2021)、高齢や精神障害などのスティグマが対象への否定的態度を規定する過程を検討した論文(清水・橋本・唐沢, 2021; Shimizu, Hashimoto, & Karasawa, 2021)などの関連成果が刊行された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度は、過年度までに新型コロナウイルスの影響でやむなく遂行を中断した実験計画を見直し、オンラインでの実験を計画・遂行した。その結果、被害者への社会的評価に関する、興味深く、意義のある知見を見出すことができた。新型コロナウイルスの影響は依然として大きく、当初の想定通りに実験が十二分に完遂できたとはいえないが、さらなる研究の展開につながる成果であり、本申請課題の計画としては前進したと評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度には、前年度に遂行されたオンライン実験の手法を継続し、知見の頑健性を確認し、さらなる発展的検討を行うことを目指す。実験のデザインや実験刺激、測定項目を踏襲しつつ、被害事例のタイプを増やし、知見の一般化可能性を探究する。また、2020年度においては「集合行動」と本課題のモデルとの理論的接続の可能性も見出されているが、2022年度にはその点を検証するため、個人としてではなく集団的な抗議行動をとる被害者を題材とした実験も行う予定である。 上記の実験と並行して、2021年度までに得られている成果を国内外の学会で発表し、さらに論文化を進めることとなる。
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Causes of Carryover |
2021年度には依然として新型コロナウイルスの収束がみられず、当初予定されていた実験をオンライン調査に切り替える必要が生じた。計画の根本的な見直しを行い、実験デザインについて多くの可能性を詳細に検討した結果、2021年度内に実験を実施することができた。しかし、知見の妥当性を検証するための追加実験には至らなかったため、2022年度には、そのオンライン実験にかかる費用(80万円)が予算として見込まれている。
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