2018 Fiscal Year Research-status Report
A Neuroethological Study of Free-Riding
Project/Area Number |
18K13267
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
小倉 有紀子 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 特任助教 (00794728)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | scrounger / producer / social foraging / risk sensitivity / state-space modeling |
Outline of Annual Research Achievements |
「ただ乗り」とは、利益(報酬)を探索し獲得するためのコストを他者に支払わせ、自らは横取りするという方略である。主に社会科学・経済学の観点から検討されてきたが、生物学・行動生態学においても、「生産者-略奪者ジレンマ」という枠組みで論じられている。自らコストを支払って餌を発見する「生産者」が多い集団において、各個体は略奪者に転じた方が利得を増やせる。しかしながら生産者の比率が下がると、ただ乗りできる報酬の総量も減る。結果として、生産者と略奪者とが一定割合で共存することが、進化的に安定な戦略となる。本研究は、動物としてのヒトという行動生態学的な観点からただ乗り問題を捉え直し、「リソース競合のある生産者-略奪者ジレンマ」という行動生態学的な枠組みをヒトの行動に適用することで、より普遍性のある形でただ乗り行動を理解できると考えた。 作業仮説は、「リスク回避的な人ほど略奪者になりやすい」である。生産者は、見つかるかどうか分からない報酬を、コストを払って探索しなければならない。他方、略奪者は既に見つかった報酬にただ乗りするので、報酬の量は生産者が獲得した分だけ少なくなるが、報酬獲得のコストは少なくて済む。したがって生産者になるか略奪者になるかの選択は、「リスクのある大報酬かリスクのない小報酬か」の選択とパラレルではないかと考えた。 今年度は、2017年度までに実施した「社会採餌ゲーム」プロトタイプの行動実験データに対して、新たに状態空間モデルを適用した。各被験者がただ乗り(略奪)行動の出現確率を潜在パラメータp_scrounge (0≦p≦1)として持ち、p_scroungeがローカルレベルモデルに基づいて時間とともに推移するものと仮定した。推定されたp_scroungeとリスク感受性関連指標との関連を調べた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
p_scroungeとリスク感受性(Eckel & Grossman (2002)の質問紙に基づく)との関連性は認められなかった。他方、予備的な検討過程で(状態空間モデリングに拠らず)求めた「生産しやすさ」の指標は、EGでリスク回避的な人ほど高い傾向が認められた。すなわち作業仮説からの予想とは逆に、リスク回避的な人ほど生産者として振る舞っていた。このような結果になった理由として、「ただ乗り傾向」と「生産傾向」とが必ずしも一次元上に存在しない可能性を考えることができる。これまでに検討したモデルでは、生産行動の出現確率p_produceがp_scroungeと同一次元にあるものと仮定し(すなわちp_produce = 1-p_scroungeである)、明示的に組み込まなかった。p_scroungeと「生産しやすさ」とは負に相関するもののばらつきが認められ、別の行動次元として検討すべきである可能性がある。 提案モデルは、概ねどのデータセットにおいても収束するという点においてある程度妥当だと考えられる。しかしながら上記の問題点の他にも、ゲーム対戦相手との相互作用など、重要だと考えられるものの現行モデルには組み込めていない変数がある。また行動を詳しく分析する過程で、2名のプレイヤーがともに「ただ乗り」しようとして報酬探索をやめてしまうなど、報酬を増やすというゲームの目的からすると一見不合理な行動が生じていることが分かった。興味深い知見ではあるものの、当初想定していなかった行動パターンが様々に存在するため、単純な「生産かただ乗りか」の二分法で行動を分類することが困難だと分かった。
|
Strategy for Future Research Activity |
第一に状態空間モデルの改善が挙げられる。対戦相手との相互作用を積極的に盛り込むとともに、「生産」とも「ただ乗り」とも判断しがたい行動パターンがみられたとしても、ロバストに「ただ乗り」の潜在パラメータを推定できるモデルを検討する。第二に行動分類手法の改善・自動化が挙げられる。第三に、ゲーム課題そのものの修正・改善が必要である。現在のタスクは生態学的な妥当性を重視した結果、過剰に複雑になっている恐れがある。プレイヤーの行動が「ただ乗り」傾向および対戦相手の行動のみならず、空間探索能力や時間認知などにも大きく影響されると考えられる。そこで現在、生態学的な妥当性はある程度確保しつつも、「ただ乗り傾向」をより適切に抽出できる実験パラダイムを改めて開発中である。報酬探索に係る意志決定においてノルアドレナリン系の活動が重要であるという知見(Aston-Jones & Cohen 2005)を踏まえ、ノルアドレナリン系活動指標の一つである瞳孔径など、生理指標測定と組み合わせることも検討している。
|