2018 Fiscal Year Research-status Report
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18K13268
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
高橋 翠 東京大学, 大学院教育学研究科(教育学部), 特任助教 (60816867)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 社会的伝達 / 配偶者選択の模倣 / 配偶者選択 / 進化心理学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は同性の他者から好ましい評価を受けた異性、および当該の異性と類似した特徴を備えた別の異性個体に魅力が知覚されるようになるという、配偶者選択における社会的伝達(Social Transmission)/配偶者選択の模倣(Mate Choice Copying)という現象に対する更なる証左を得ると共に、その適用範囲と限界を明らかにしようとするものである。具体的には、他者の選択行動の観察に基づく同一・類似対象に対する判断基準の変化(他者行動の観察と基準の学習・般化)がより一般的な学習のメカニズムを基盤としたものであり、同性やそれ以外の事物一般の判断にも適用されるか、それとも先行研究の指摘するように配偶者選択の失敗や試行錯誤のコストを低減する機能をもつ適応であり、異性選択の文脈において特定の条件下(配偶者選択の経験や知識の少ない年若の個体等)で生じるのか、後者の場合にはどのような条件下で生じるかを、先行研究の発展的追試を足掛かりとして検討している。進化心理学で指摘されている社会的伝達現象を、古典的なジェンダーの発達心理学が依拠してきた社会化の具体的なプロセスの1つとして位置づけ、対立的に論じられてきた両研究領域の統合を試みる点も新規性の一つである。本年度はまず社会的伝達の文献を収集し、主たる知見と課題を整理した。その結果、社会的伝達現象の直接の証左といえる研究は限られ方法論に課題も多く、更には必ずしも他の配偶者選択にまつわる進化理論と整合的に論じされていないことがわかった。具体的には社会的伝達は特に長期的パートナー選択において生じることが指摘されているが(例えばLittle et al., 2008)、他の女性の異性選好基準の参照は、配偶者選択に関する魅力的な息子仮説(Sexy Son Hypothesis)に依拠すれば短期的パートナーの方がむしろ重要であると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本年度は先行研究の文献整理と実験実施環境の構築に留まった。文献整理の段階において、社会的伝達を扱った先行研究の内部、および他の主要な配偶者選択理論と整合的でない点が多くあることや、方法論に課題がある研究が多いことがわかり、課題や矛盾点の把握と整理に時間を要した。例えば最新の知見の一つであるLittle et al.(2015)において、配偶者選択基準の社会的伝達は若年者において影響力が大きいと報告しているが、彼らの研究対象者においては年長者の人数が少ないため年長者データにはサンプリングバイアスが生じている可能性があること、データ上ではむしろ数少ない年長者においてむしろ他者の選好する特徴への魅力が下がる現象が生じている可能性を示唆している等が挙げられる。また、Little et al.(2015)やWaynforth (2007)の報告する同性の異性に対する魅力評価の参照による影響は、魅力の“上昇効果”と言うよりむしろ基準値の参照による魅力評価の“修正効果”として理解した方が適切であるように考えられる;Waynforthの研究では、魅力的な女性の顔と対呈示された魅力度の低い/中程度の男性顔に対する評価が上昇した一方で、元々魅力度の高い男性顔に魅力度の低い女性顔が対呈示された場合には魅力評価が低下した。他動物種における社会的伝達研究では、社会的伝達は選択基準が曖昧・不明である場合(異性個体間に明確な差異がない場合)に他の同性個体の選択の参照が生じるとしている(つまり魅力上昇を扱っていると考えられる)。しかし、ヒトの研究においては先に述べたように既に選択基準が明確である場合に(身体的魅力度の高い個体において)、魅力の低減・調整が生じていることが示されており、他動物種で報告されている社会的伝達(配偶者選択の模倣)のヒトへの適用可能性を原義に立ち返って議論する必要があると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、社会的伝達のヒトへの適用可能性について先行研究の問題点および課題を整理する(概説論文を執筆する)。その上で、課題申請書に記載したように、他者の選択の観察が異性だけでなく同性の魅力評価や人以外の対象にも適用されうるものかどうか、Little et al. (2015)のように対異性評価のみで生じるのであれば、生じやすい条件について年齢以外の要因(選択の観察を行った同性と評定者との類似性や評定者自身の魅力度など)の影響を検討する(申請書における研究1,2の実施)。その際、他者からの影響が、魅力上昇/低減のどちらあるいは両方の方向性で生じるかどうかも吟味する。
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