2019 Fiscal Year Research-status Report
脳波と人工知能を用いた条件づけによるマインドワンダリングへのメタ的気づき能力上昇
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18K13332
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Research Institution | Advanced Telecommunications Research Institute International |
Principal Investigator |
川島 一朔 株式会社国際電気通信基礎技術研究所, 脳情報通信総合研究所, 研究員 (90773292)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | マインドワンダリング / メタ的気づき / EEG microstate |
Outline of Annual Research Achievements |
マインドワンダリング(Mind-Wandering: MW)とは、現在取り組んでいることと関係のない事柄について考えてしまうことを指す。日常生活においてMWに陥ることは、気分を下げたり抑うつの原因になったりと、精神的な健康度に悪い影響を及ぼすとされる。一方で、MWに陥る傾向とクリエイティビティとが正相関することも報告されていること等から、MWの頻度を減らすべきとも一概に言い難い。近年、MWが生じていることに気づく能力が高いほど、MWからの悪い影響を受けにくいことが示されつつある。このMWへの気づきを高めることによって、気分の悪化等を防ぎつつ、クリエイティビティの増強といったMWからの良い影響を享受できる可能性がある。しかし現在、MWに気づく能力を操作する手法が存在しないため、この可能性を実験的に検証することは難しい。 そこで本研究計画は、MWへ気づく能力を高める手法を開発することを主要な目的とした。当該年度においては、脳波からMWを検出しフィードバックすることによって古典的条件づけを成立させ、MWへの気づきが向上するかを検証した。58名を対象に実験を行い、うち条件にあう37名からのデータを検討した。プログラムにより群割付を自動化し、被験者へは実験の真の目的を研究終了時まで伏せることによって、二重盲検法のパラダイムを用いて検証を進めた。その結果、20分1回の条件づけ手続きによって、MWへ気づく能力の行動的・神経科学的指標が条件づけ直後に有意に上昇することが示された。MWへ気づく能力については注目を集めているものの、介入方法が存在しないために研究が進んでいなかった。当該年度における研究成果は、この現状に対するブレイクスルーとなりうるものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究計画が提案するMWへの気づきを高める条件づけにおいては、被験者がMWしていることをリアルタイムに検出することが肝心となる。研究計画段階ではその検出の精度が条件づけの成否を大きく左右すると考えた。そこで精度をなるべく高くするために、情報量の多い高密度脳波計と、その情報量を扱うための機械学習を取り入れ、被験者個人ごとに予測モデルを作る計画とした。しかし結果としては、期待した精度をもった予測モデルを作ることができなかった。脳波から得られる情報量に対して、現実的な実験時間で集められるサンプルの数が少なかったためと考えられる。これまでの研究では、事前仮説をもたずに脳波から得られた変数を機械学習へ投入していた。しかし、先行研究でMWと関連することが頑健に知られている変数のみを選択することが、MWを検出する機械学習モデルを作る上では有効である可能性がある。より高精度なモデルを作ることで、条件づけによる効果を高められると期待できる。 MW検出の精度が期待通りにならなかった一方、その程度の検出器を用いた条件づけによっても、仮説通りの効果を持つことが示された。検出の閾値を上げ、同じ予測性能のうちでも特異度をなるべく高める調整を行ったことが功を奏したと思われる。この方策を用いることで、高密度脳波計といった装置を用いることができず高精度でのMW検出が期待できない状況においても、条件づけを実施することができる可能性がある。 今後の研究として、この条件づけを継続的に行わせる効果を検証する予定であった。しかしこれに先んじて以上2点の可能性を検証することで、検証を大きく精密化・効率化することができる。そこで計画を変更し、これら可能性を検証するための研究準備に時間を使用したため、進捗に遅れが生じた。
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Strategy for Future Research Activity |
条件づけを継続的に行うことによる効果を調べる研究に繋げるべく、上述した2つの可能性を検証する。まず、MWをできる限り高い精度で検出するための認知課題を開発する。先行研究においては、課題の反応時間の分散がMWを反映することが知られている。しかし反応時間分散とMWの相関はそれほど強くなく、検出に使うことは難しいことが報告されている。そこで、その成績がよりMWを反映していると考えられ、MWの検出に利用できると考えられる認知課題を開発する。課題成績からある程度以上の精度をもってMW検出することができれば、スマートフォンなどのみによって本研究計画が提案する条件づけを行うことができる。そのため、今後の研究において非常に多くの被験者を対象とした効果検証が可能になると考えられる。現在、課題のプログラム作成が概ね完了しており、実験の開始に備えている。 同時に、MWをより高い精度で検出するための生理指標の探索を行う。これまでに、予備的な実験にて心拍誘発電位とMWの関連性を確認している。心拍誘発電位の振幅のほか、瞳孔径などのこれまでにMWと関連することが報告されている生理指標を組み合わせてMWの検出精度が上がるか検討する。またMWを反映する脳波指標を探索するため、これまでに取得したデータを再利用し、様々な解析方法を試す。これによって、今後の研究においてより強く条件づけを行うことができるようになると考えられる。そして、条件づけを持続することによる気分やクリエイティビティ等への影響を、より高い信頼性をもって検討できると期待される。現在、microstateと呼ばれる解析方法を適用し、それによって得られる指標とMWの程度との相関を検討している。
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Causes of Carryover |
主に、被験者への謝金支払いのために使用する予定である。また、計算量の多い脳波データ解析を行うためのPCを購入する計画である。さらに、実験用のPCの動作が経年劣化のためか不安定であるため、新たに購入することを検討している。
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