2018 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
18K13378
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Research Institution | National Institute for Physiological Sciences |
Principal Investigator |
菅原 翔 生理学研究所, システム脳科学研究領域, 特任助教 (80723428)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 運動学習 / 記憶痕跡 / 腹側被蓋野 / 一次運動野 / 機能的磁気共鳴画像法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、他者との競争が系列運動技能の定着を促進することを明らかとし、競争による定着促進を支える心理学的・神経科学的基盤を解明することである。平成30年度は、競争を伴う練習によって系列運動技能の定着が促進されるという現象を立証する計画であった。具体的には、対戦相手と競争しながら系列運動技能を練習する群と、自身の成績のみをフィードバックされながら系列運動技能を練習する群で、翌日に認められる技能定着の程度を比較する。実験環境のセットアップに時間を要したため、現在も行動実験を実施中である。 神経科学的基盤の解明を加速するため、機能的MRIを用いた実験を複数行った。第1に、系列運動技能に関する記憶を表象する神経科学的変化(記憶痕跡)についての研究を行った。記憶痕跡を捉えることは一般に非常に難しいが、我々は2つの脳ネットワーク解析手法を用いて、系列運動技能学習と通じて頭頂葉-運動前野-一次運動野を結ぶネットワークに情報蓄積が起こることを示した。第2に中脳ドーパミン系と運動回路を結ぶ神経基盤を調べるため、金銭報酬が懸かってる場合にはより速く強い力の反応が起こる現象を扱った。結果として、中脳の腹側被蓋野/黒質緻密部と一次運動野が協働するほど、強い力が出ることが明らかとなった。競争時の中脳ドーパミン系の賦活と、一次運動野を含む運動ネットワークで形成される記憶痕跡を結ぶ経路として、今回明らかとなった中脳ー運動野の結びつきは重要な知見であると考えている。 当初の年次計画とは異なる部分があるが、本研究課題の目的に向かって複数の成果を得ていると言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成30年度は、競争を伴う練習によって系列運動技能の定着が促進されるという現象を立証する計画であった。具体的には、対戦相手と競争しながら系列運動技能を練習する群と、自身の成績のみをフィードバックされながら系列運動技能を練習する群で、翌日に認められる技能定着の程度を比較する。実験環境のセットアップに年度前半を費やした影響で、現在も行動実験を実施中である。 他方で、中脳ドーパミン系と運動回路を結ぶ神経機構について機能的MRIを用いた研究成果を発表した。具体的には、金銭的報酬により運動時の把持力が増大する現象について、中脳ドーパミン含有神経核である腹側被蓋野/黒質緻密部と大脳皮質の一次運動野が協働することを示した。中脳ドーパミン系が一次運動野へ直接投射を持つことはげっ歯類や霊長類で報告されているが、ヒトにおける機能的な役割については未だ不明瞭であった。本研究成果は、申請課題の最終目標である神経科学的機序の解明に大きく貢献する成果である。 さらに、系列運動技能の記憶痕跡に関する研究成果も報告した。記憶痕跡を捉えることは一般に非常に難しく、系列運動技能の記憶の座は未だに議論の余地がある。我々は脳ネットワーク解析手法であるEigenvector Centrality MappingとDual regressionという2つの手法を用いて、練習中の非運動区間と練習後の安静時において左頭頂間溝周辺領域に情報蓄積が起こることを示した。この情報蓄積が実際の運動成績と相関することからも、系列運動の記憶痕跡であると考えている。 以上の成果を踏まえ、当初の年次計画とは異なるが、申請課題全体としては「おおむね順調に進展している」と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成31年度は、競争による定着促進を支える心理学的基盤を明らかにすることを目標とし、行動実験を推進する。年度前半で競争を伴う練習によって系列運動技能の定着が促進されるという現象を立証し、後半ではより詳細な条件についての検証を進める計画である。より具体的には、前半で昨年度より進めている競争群と非競争群において系列運動技能の定着度を比較する実験を完了する。後半では、競争中に引き起こされる動機づけが高いほど定着が促進されるという仮説を検証するため、実力が拮抗する群と実力差が顕著な群で比較を行う。昨年度で実験環境のセットアップを完了しているため、データ収集を効率的に進めることができると考えている。 加えて、所属機関における業務として7T-fMRIによる研究を推進しているため、本研究課題についても平成30年度得た神経機構についての知見を深く探求することを目的とし、7T-fMRI実験を推進することを考えている。すでに系列運動技能学習中の7T-fMRI計測を行っているため、左頭頂間溝周辺領域で蓄積されると考えられる記憶痕跡が保持する情報内容を、Multivoxel pattern analysisにより詳細に検討したい。さらに、中脳ドーパミン系と運動回路の相互作用を考える上で、中脳と線条体を結ぶ神経経路を機能と構造の面から検討する7T-fMRI実験を行う予定である。7T-MRI装置を利用するこれらの計画は当初考えていたものではないが、所属機関の持つ特色を活かして、本研究課題の目指す神経機構解明を加速するものであると考えている。
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Causes of Carryover |
計画していた行動実験が現在実施中であり、それにかかる被験者謝金として次年度使用額が生じている。現在も継続して実験を実施しているため、次年度使用額として残っている助成金は被験者謝金として使用する計画である。
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Research Products
(5 results)