2018 Fiscal Year Research-status Report
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18K13383
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
永野 中行 金沢大学, 数物科学系, 准教授 (30707873)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | K3曲面 / Abel多様体 / 保型形式 / 二次形式 / ミラー対称性 |
Outline of Annual Research Achievements |
Kneser条件を満足する超越格子を持つようなK3曲面の周期写像を考え,周期写像の逆写像による保型形式の構成と,保型形式の環の構造の決定を行った.これは次数2のSiegelモジュラー形式をK3曲面の視点に立って拡張したことに相当する. 次数2のSiegelモジュラー形式とは,主偏極Abel曲面のモジュライ空間に付随した保型形式である.Siegelモジュラー形式を,主偏極Abel曲面の代わりに,K3曲面のモジュライ空間に付随した保型形式と捉え,K3曲面の逆周期写像で構成した研究としては,2008年のA.Kumar氏,2012年のA.Clngher氏-C.Doran氏,2015年の本研究者-志賀弘典氏の研究がある. 本研究者は本年度にClingher氏-Doran氏の研究結果をK3曲面の視点に立って自然に拡張した.即ち,超越格子がKneser条件という整数論的な条件を満たすような格子偏極K3曲面を考えて,その逆周期写像によって保型形式の構成を行った.このようなK3曲面は楕円曲面の構造を持ち,それは小平の記号でII*,IV* という特異ファイバーを持つ.このK3曲面の周期写像は,K3曲面のTorelli型定理と周期写像の全射性及びI.Dolgachev氏の結果を今回の場合に応用することによって,複素4次元のIV型Hermite対称領域への全射となることがわかる.この周期写像の逆写像を考えると,Hermite対称領域上の保型形式を得ることができる.この結果は論文(arXiv:1903.01282)にまとめられた. この論文で用いたKneser条件の手法は,ミラー対称性の研究で重要な特異点の半普遍変形に由来するK3曲面の研究にも用いることができると期待される.この可能性を追求するため,ミラー対称性の専門家の植田一石氏(東京大),橋本健治氏(東京大)との研究打ち合わせを行った.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
この計画の初年度の目標は,Siegelモジュラー形式をK3曲面の視点に基づいて自然に拡張することであった.本年度本研究者は,Kneser条件という二次形式の整数論的な条件に注目することによって,その目標を達成することができた.したがって研究はおおむね順調に進捗していると判断する.
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Strategy for Future Research Activity |
Siegelモジュラー形式は類体の明示的な構成に使えるなど強力な数論性を持つことが知られている.今回得られた保型形式も,やはり強力な数論性があると予想される.今後はこの数論性の考察を行いたい.まずは保型形式をテータ関数などの具体的な特殊関数で表示することを目指している.この際,今回得たK3曲面が非常に簡明な方程式で定義されることが大きな長所になると期待している. また,代数的組合せ論の専門家である大浦学氏(金沢大)との議論により,この保型形式のなす環は,Shepherd-Todd による分類の33番目の複素鏡映群の不変式の環の構造との非自明な関係があると予想されるに至った.これはHirzebruchによって与えられた,Kleinの正二十面体群の不変式(すなわちShepherd-Todd の分類における23番目の群に対応する)とHilbertモジュラー形式との関係の,自然な高次元化を与えると予想される.今後この方針を追求したい. 今回得た保型形式はLie 群SO(2,4)に対応する.このことから,最近Langlands プログラムの研究で重要性を増しているBianchi モジュラー形式という実モジュラー形式の明示的な構成をする際に今回の結果を利用することができる可能性が高い.この予想に基づき,本年度Bianchiモジュラー形式の専門家であるH.Sengun氏,T.Berger氏(英国,Univ.Sheffield)を訪問し,この予想について討論を行い,幾つかの見通しを得ることができた. 今後,Bianchiモジュラー形式の明示的な構成に向け,この研究協力関係を発展させたい.
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Causes of Carryover |
本研究者は本年度において,所属研究機関を移動した.この移動のために,予定していた幾つかの国内出張計画を見合わせざるをえなかった.これが次年度使用額が発生した理由である. 次年度使用額は2019年度の前半に,見合わせてしまっていた研究出張計画を改めて遂行するために使用する予定である.
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