2018 Fiscal Year Research-status Report
双曲的代数曲線のモジュライに関連する数論幾何学と量子場の理論との融合的研究
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18K13385
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
若林 泰央 東京工業大学, 理学院, 助教 (80765397)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | p進タイヒミュラー理論 / べき零固有束 / モジュライ / ベーテ仮説方程式 / p曲率 / oper |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度の研究は主に二種類へ大別される。 一つ目は、p進タイヒミュラー理論のシンプレクティック幾何学的観点についての研究である。複素数体上のタイヒミュラー理論において、射影構造のモジュライ空間上に構成される様々なシンプレクティック構造の比較は、基本的な主題の一つである。特に(様々な意味での)一意化により標準的に構成されるシンプレクティック構造とGoldmanによる構成との比較は、S. Kawai、P. Ares-Gastesi、I. Biswas、 B Loustauらによってなされている。当該年度の研究では、通常べき零固有束のp進持ち上げによる一意化において、同様の比較定理が成り立つこと証明した。これにより、p進タイヒミュラー理論の新たな側面を見出し、解析的な一意化の議論をp進版において実現する技術が拡張された。当該成果は論文「Symplectic geometry of p-adic Teichmuller uniformization for ordinary nilpotent indigenous bundles」としてまとめ、プレプリントを近日公開する予定である。 二つ目は、正標数におけるベーテ仮説方程式に関する研究を行った。E. Frenkelによって示された「ベーテ仮説方程式の解と然るべきMiura operとの対応」の正標数(およびdormant operにおける)類似を証明した。その応用として、小平消滅定理などの反例を与える正標数の代数多様体の具体例を構成した(これは正標数の代数幾何学において基本的な主題の一つである)。これらの成果は論文「Dormant Miura opers, Tango structures, and the Bethe ansatz equations modulo p」としてまとめ、プレプリントを近日公開する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
所属機関の変更に伴う作業や環境変化により、少し研究が滞った期間があった。二つの新しい論文の執筆作業を終えたことに関しては、順調に進捗しているといえる。また、これらの成果により、さらに研究内容に関する知見が深まり、当初予期していなかった考察が新たに生まれた。その点に関して(優先順位を考慮しつつ)予定と異なるスケジュールで今後研究を進めるかもしれない。dormant operの数え上げ幾何学の研究については、今まで以上に視野を広げ、(特にグロモフ・ウィッテン理論などのコホモロジー的場の理論に関わる領域へと繋がるように)研究を進展させるためには時間が必要だったが、今年度はあまり時間を割くことができなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
当面は、現在執筆段階にある「代数曲線の余接束上の変形量子化を休眠固有束を用いて構成する」研究に関する論文をまとめる。同時並行で、当該年度の成果の応用や発展について考察する期間を設けたい。特に、dormant Miura operやベーテ仮説方程式の解による(正標数体上の)「病理的」多様体の構成の高次元化やそのような多様体のモジュライ理論について理解を深めたい。また、継続してdormant operの数え上げ幾何学についての研究も進める予定である。他のコホモロジー的場の理論との関係や(dormantとは限らない)p曲率べき零な対象について同様の観点のもとで調べたい。(この研究については、当該年度で行った研究により今後の推進方針がより明確になった。次年度は具体的な成果へ繋がる段階まで進捗することを期待している。)
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Causes of Carryover |
当該年度におこなった研究講演はいずれも旅費が掛からなかった(先方負担)ため、実支出額は想定より下回った。しかし、研究成果を発表し研究者間で交流する機会を今後増やしていく予定であるため、当該年度以上に出張旅費が必要となることから考えても、適切な範囲での誤差と言える。実際、次年度では(国内外の)出張が既にいくつか計画されているため、その旅費として使用する。また、当該研究の知見をさらに深めるために必要な物品(数論幾何学、代数幾何学、数理物理学に関する専門書籍など)を購入する予定である。
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