2019 Fiscal Year Research-status Report
双曲的代数曲線のモジュライに関連する数論幾何学と量子場の理論との融合的研究
Project/Area Number |
18K13385
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
若林 泰央 東京工業大学, 理学院, 助教 (80765397)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 代数曲線のモジュライ / 固有束 / oper / 射影構造 / 正標数 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,代数曲線上の固有束に関する数学を土台として,(i) 有限体やp進体上の数論および代数幾何学,(ii) グラフ的対象を主とする組合せ論,そして (iii) 素粒子物理学を背景とする数え上げ幾何学や可積分系の理論,に属する対象たちを繋ぐ様々な「三位一体」を実現することである.2019年度初めに論文(arXiv:1905.03364v1 [math.AG])を公開した.当該論文では,正標数の代数幾何学において主題の一つである(小平消滅定理の反例となるような)いわゆる「病理的な」多様体の構成を,Gaudin模型に対するBethe仮説方程式の有限体解を用いて具体的に与えた.これは,既存の成果と合わせることで実現した(i)と(iii)の繋がりの応用といえる.また,関連する対象の数え上げについては,下部代数曲線を完全退化させた様子を調べることにより,((i)と(ii)の繋がりを用いて)然るべき彩色グラフの数え上げとして具体的に記述される.「Bethe仮説方程式」や「彩色グラフ」とのこのような新しい繋がりによって,正標数の「病理的」現象を(具体例の新発見とともに)多角的に理解することが可能になった.また,2019年度中に公開した他の論文(arXiv: 19005.03368v1 [math.AG]”)では,p進Teichmuller理論のなかで構成された「p進代数曲線の一意化」のシンプレクティック幾何学的側面を示した.より具体的には,古典的なリーマン面の一意化理論における「射影構造のモジュライ空間上のシンプレクティック構造に関する比較定理」のp進類似を証明した.p進Teichmuller理論の「p進的側面」に関する先行研究において今まで考えられてこなかったシンプレクティック幾何学的観点を導入し,当該理論に新しい広がりと可能性を提供したと言える.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は概ね順調に進捗していると言える.現在は,新しく得られたいくつかの成果について論文執筆中である. 例えばその1つとして,dormant 固有束やその同値な概念であるFrobenius射影構造を用いて,theta因子の全空間上(これは自然なシンプレクティック構造をもつ)にFrobenius変形量子化が標準的に構成されることを証明した.これはD. Ben-ZviおよびI. Biswasによって証明された複素射影構造に対する主張の正標数類似と捉えられるものである.また,さらなる発展として,Frobenius射影構造を高次元代数多様体上のものへと拡張させることにより,当該成果の高次元化を示した.これらの成果については,2020年度の前半には論文を書き終える予定である.さらに別の成果として,正標数(特に有限体上)のBelyi写像の次数評価を具体的に与えた.Belyi写像とは代数曲線から射影直線へ高々3点上でのみ分岐する被覆のことであり,このような写像の存在や次数評価は,代数曲線の定義体の数論性や組み合わせ論的記述(dessin d’enfant)の理解において深い事実と関わっている.今回は,正標数における(tame分岐のみを許し,特定の点で不分岐になるという強い条件を満たす)Belyi写像の存在を示し,最小次数の値を上から(種数のみを用いて)具体的に評価した.この結果は,有限体上の代数曲線において,然るべき意味で「良い」座標近傍系を取ることができることを示している.それは正標数の射影直線と一次分数変換を局所モデルとして構築される(本研究が土台としている)幾何学が持つ顕著な性質を捉えたものである.当該論文は2020年度の前半には書き終える予定である.
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度に行なった変形量子化の研究の中で,(本研究の中心的研究対象であるdormant固有束と同値な概念の)Frobenius射影構造の高次元版を導入した.このような高次元化は本研究で目指すべき目標の一つであるが,「Frobenius射影構造をもつ高次元代数多様体が(射影空間以外に)存在するか」という問題は非自明である.1980年代から,高次元の複素射影構造やアフィン構造に関する研究はS. KobayashiおよびT. Ochiaiによる研究を起点として展開されてきたが,正標数においては皆無である.しかし2019年度後半から始めた当該研究のなかで,複素数体上の理論と同様に,所望の高次元多様体の構成を含めて正標数においても類似的展開が可能であることが分かった.またその際に,P. Berthelotらによる有限levelのD加群の概念を用いた拡張を考えることが有用であることも分かり,本研究の新しい方向性が示された.2020年度はこの「Frobenius射影構造やdormant固有束の高次元化および有限level化」に力点を起きつつ本研究に取り組む予定である. また,継続的に行っている研究である「dormant固有束のモジュライ空間の大域的構造の研究」も2020年度の後半に取り組みたい.2019年度の後半では,研究の際に必要な知見を得るための期間を設けていたが,その中で得た成果を論文としてまとめたい.より具体的には,D. Mumfordによる(代数曲線のモジュライ空間に対する)Chern指標公式の「dormant固有束類似」を与える明示公式を示すことに取り組んでいる.
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Causes of Carryover |
コロナ禍の影響により,予定していた海外出張が延期になった.そのため,当該年度中に使用予定の研究費が使えなかったため,次年度使用額が生じた.
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