2021 Fiscal Year Research-status Report
非線形分散型方程式の幾何学的対称性と共鳴現象の解析
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18K13442
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Research Institution | Saga University |
Principal Investigator |
加藤 孝盛 佐賀大学, 理工学部, 講師 (50620639)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 分散型方程式 / 非線形 / 初期値問題 / 適切性 / 可積分系 |
Outline of Annual Research Achievements |
申請者の研究課題は, 非線形分散型方程式に対する初期値問題の適切性(解の一意存在と初期値に対する連続依存性)の解明である。非線形分散型方程式の解析において, 線形化方程式の解が持つ分散性と非線形性のバランスが重要になるが, 1993年のBourgainのフーリエ制限法の導入により, これらの性質を同時に扱うことが可能になり, ある程度一般的な枠組みで適切性理論が整備されつつある。一方で, 線形化方程式の解の摂動として捉えることができない特異性の強い非線形相互作用を持つ方程式に対しては, 未だ未開拓な部分が多くある。 申請者はこれまでの研究において, トーラス上の5次KdV方程式, 5次修正KdV方程式及び4次シュレディンガー方程式という高い対称性を有する可積分系の非線形分散型方程式に対象をしぼり, その適切性を肯定的に解明した。これらの方程式は, 直接的に線形化方程式の解の摂動として捉えられないが, その原因となる非線形相互作用は, 方程式が持つ高い対称性により, 微分の損失を持つ共鳴部分に明示的に局在化され, 保存量を用いた変換により相殺することができることが鍵となり, 適切性の解明に至った。 今年度は, 5次KdV方程式と4次シュレディンガー方程式において, 上で相殺した共鳴部分以外の非線形項, つまり微分の損失を持たない共鳴部分と非共鳴部分に対して, それぞれ対称性と分散構造を生かすことで, より精密な多重線形評価を構築した。これにより, 超関数の意味で非線形項が定義可能な臨界となる関数空間において適切性を導くことができた。またこの評価により, 問題となる共鳴部分の相殺には可積分系の一部の性質しか必要でないことが分かったため, 非線形項の係数にある程度自由度を許容するより一般的な方程式に対し, 適切性を示すことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究実績で述べた研究において, 線形化方程式の解の摂動として捉えられない共鳴部分の対称性を明示的にするためには, その他の非線形項に対し, 繊細かつ精密に評価する必要がある。研究開始当初は, これらの非線形項に対しては統一的に評価することが可能で, 線形化方程式の摂動とみなせると予想していた。しかし, 非共鳴部分でさえもある程度強いの特異性を有するため, フーリエ制限法やそれに類した手法が機能しないことが要因となり, 個々の非線形項に対して別のタイプの多重線形評価の構築が必要不可欠となった。この計算に予想以上の時間を費やしてしまったため, 現状ではこの結果を論文としてまとめることができていない。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の研究において, 5次KdV方程式及び4次シュレディンガー方程式に対して, エネルギー空間を含む低い正則性を持つ関数空間における適切性を解明できたため, それを利用し, 以下の研究を進める予定である。 1 エネルギー空間におけるソリトン解の存在が知られており, 軌道安定であることが予想される。そこで可積分系の構造を反映した変分的特徴づけとソリトン解周りの線形化作用素のスペクトル解析を組み合わせることにより, その予想の解決を目指す。 2 適切性を示した関数空間では, 線形化方程式のギブス測度を定義することが可能である。そこで1994年にBourgainにより導入された確率論的手法と調和解析的手法により構築した精密な多重線形評価を組み合わせることにより, ギブス測度の構成及びその不変性を示す。その際にギブス測度を条件付き確率測度として導入することが鍵となる思われる。 3 KdV階層およびシュレディンガー階層に属する一般次数のKdV方程式およびシュレディンガー方程式に対する初期値問題の適切性の研究も持続して行う。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルスの拡散の影響により, 今年度, 参加する予定であった研究集会が中止あるいはオンラインで実施されたため, それに使用する予定であった旅費を繰り越す。繰り越した助成金は, コロナウィルスの拡散が緩和され, 対面で実施される研究集会などの旅費として使用する予定である。また自らが組織委員である研究集会 「Saga Workshop on PDE」と「PDE Workshop in Miyazaki」を来年度も継続し, 開催する。
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