2018 Fiscal Year Research-status Report
受精ダイナミクスに潜む連続体の数理:実験データに基づいた理論的アプローチ
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18K13456
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
石本 健太 東京大学, 大学院数理科学研究科, 特任助教 (00741141)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 流体力学 / 連続体力学 / 数理モデル |
Outline of Annual Research Achievements |
精子の波形の違いの特徴づけのために、異なる粘性をもつ溶液内でのヒト精子の高速顕微鏡映像を解析した。すでに報告した手法を用いて精子の周りに生じる流れ場の解析を行い、精子遊泳の力学を少数の正則化Stokes極の重ね合わせによる数学表現に帰着させた。異なる溶液内での波形の違いがStokes極の配置パターンとして明確に特徴づけることができた。またこれらの数学的な表現を利用することにより、精子の集団レベルでの振る舞いを記述する数理モデルを構築した。高粘性性溶液中で見られる動的な精子の集団クラスタが形成されることが実験的に知られているが、これを定性的に再現することに成功した。これらの一連の研究は、鞭毛波形の幾何学的な特徴づけを集団運動への影響という形で明確にしており、受精メカニズムの理解に向けての重要な一歩だと考えている。 多数の精子内の鞭毛波形の違いを調べるためには、多数の顕微画像の高速な画像解析が必要となる。鞭毛の一次元な構造に注目した中心軸変換を用いた画像解析アルゴリズムにより、精子鞭毛を含む鞭毛画像の自動解析が可能になった。今までの方法では多数のデータを一度に解析するには、多くの手間と時間がかかっていたことを考えると、今後の研究の進展にとって非常に意義深い。 透明帯と結合した精子によって駆動する卵の運動を記述する数理モデルが大腸菌のような周毛生バクテリアの遊泳を記述する数理モデルと数学的に非常に近い構造を持っていることに気づいた。以前の数理モデルを一般化することにより、弾性的なやわらかさによりバクテリアの方向が定まることを理論的に示すことに成功した。これは、周毛性バクテリアの遊泳理論の基礎づけを与える重要な結果だと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
概ね計画通りに進んでいるが、特に次の2点に関しては研究スタート時には予測していなかった研究の進展があった。 (1) 中心軸変換を用いた画像解析アルゴリズムにより、精子鞭毛を含む鞭毛画像の自動解析が可能になった[Walker, Ishimoto & Wheeler, Sci. Rep. 2019]。今後はこの画像解析手法を使うことにより、研究が格段に進むことが期待される。 (2) 長期滞在していたOxford大学で聴講したセミナー講演がきっかけとなり、以前に報告した透明帯に結合した状態の精子と卵の運動を記述する数理モデル[Ishimoto, Ikawa & Okabe, Sci. Rep. 2017]が周毛性バクテリアの遊泳に適用できることに気づいた。以前の数理モデルを拡張・一般化することにより、周毛性バクテリアの一般的な遊泳理論を構築することができた[Ishimoto & Lauga, Proc. R. Soc. A, 2019]。これを逆に利用することで精子の透明帯通過時の力学についても新しい結果が得られるかもしれない。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究方策としては、上記に記載した1年目の研究成果と予想外の研究の進展を考慮して、主に次の3点に取り組む予定である。 (1) 多数の鞭毛顕微画像を上記の画像解析手法を用いて解析し、精子間での波形の共通性とそこからの違いの特徴づけを行う。 (2) 個々の精子の鞭毛波形の実験データから集団運動を記述する数理モデルを構築したが、簡単化した精子間の流体相互作用の正当化を改めて検証する。特に2体間の流体相互作用に注目して直接数値計算との比較を行う。その際には、2次元的な運動に制限していた集団運動の数理モデルを3次元運動に拡張する必要がある。 (3) 透明帯結合時の精子とバクテリア鞭毛の相違点を考慮し、特に鞭毛(精子の数に対応)がひとつの場合に焦点を絞り、弾性と流体の双方が含まれる鞭毛遊泳の理論解析を進める。
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Causes of Carryover |
[理由] 所属先の変更と長期の海外渡航に伴い、備品等の所属の変更手続きと備品の移動に大幅な時間がかかり、当初購入を予定していた計算機ソフトウェア等の購入手続きが間に合わなかった。 [使用計画] 1年目に購入を計画していた計算機および計算関連ソフトウェアの購入を行う計画である。また、ここまでで得られた結果、および論文として発表した研究成果を国内および国外での学会等で発表することを計画しており、そのための学会参加費および旅費に使用する予定である。
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