2019 Fiscal Year Research-status Report
高密度粒子系の非局所性に基づく新しい連続体理論の展開
Project/Area Number |
18K13464
|
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
齊藤 国靖 東北大学, 数理科学連携研究センター, 准教授 (10775753)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | ジャミング転移 / レオロジー / 動的臨界現象 / 拡散 / 輸送現象 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、非熱的なソフト粒子系の粘弾性挙動に注目し、せん断変形に対する応力緩和を始め、外場に対する粒子系の緩和過程について大きな進展が得られた。研究方法はこれまで通り、分子動力学法による数値シミュレーションを用いたが、慣性を無視した粒子モデルに特化したことが本年度の特徴である。また、ソフト粒子系の液相から固相への相転移が生じる密度(ジャミング転移点)の近傍で精密な数値解析を行ったことも特筆すべきである。具体的には、ソフト粒子系のポテンシャルエネルギーの変化を、粒子をランダムに配置した場合、および定常せん断流を止めた場合について調べ、ジャミング転移点近傍で緩和時間がどの様に振舞うかを調べた。その結果、ソフト粒子系が液相から固相に近付くにつれ、緩和時間が冪的に発散し、いわゆる動的臨界現象の臨界緩和と同様に、ジャミング転移点近傍における緩和時間の臨界スケーリングを見出すことが出来た。また、レオロジー分野で用いられる緩和試験を数値シミュレーションで再現し、応力の緩和時間がジャミング転移密度の上下で異なる発散指数を持っていることも明らかにした。これらソフト粒子系の緩和時間の特徴は、緩和後の粒子配置における振動状態密度で説明することが出来る。例えば、慣性を無視した粒子モデルの応力は、せん断歪みに対する線形応答の範囲で、ダイナミカルマトリックスによる定式化が可能である。これにより、ゼロでない(フロッピーモードでない)最小の固有振動数が緩和時間を決定していることが解り、振動状態密度がジャミング転移点の上下で異なる振る舞いをすることから、緩和時間の発散指数の違いを説明出来る。特に、液相で見られる孤立モードの存在は新しく、ソフト粒子系の定常せん断流における粘性発散との直接的な関係も示唆される。その他、慣性を無視した粒子モデルの拡散係数の臨界スケーリングに関する研究成果も得られている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
ソフト粒子系の非局所的な構成則については、昨年度までに分子動力学法を用いた数値シミュレーションによって順調に成果を出している。例えば、コルモゴロフ流における非局所的な構成則の検証は済んでおり、非局所性の範囲を表す相関長とジャミング転移との関係を解明したばかりである。本年度は粘弾性挙動に集中し、レオロジーと振動状態密度の関係を軸に、緩和過程とジャミング転移との関係を明らかにしつつある。研究計画では、非局所性と粘弾性の関係および非局所性と弾塑性の関係について調べる予定で、コルモゴロフ流で得た成果と、本年度の成果を組み合わせて、研究計画の遂行に努めたい。また、せん断変形下で降伏するソフト粒子系のアバランチ現象(急激な応力降下)は、高密度系における粒子間の強い空間相関と関連していると考えられ、弾塑性に潜む非局所性を解き明かす鍵として、現在特に力を入れているテーマである。また、本年度のせん断変形下におけるソフト粒子の自己拡散も新しいテーマであり、熱的なガラス系における動的不均一性との関係など、今後も詳細な解析が必要な重要テーマである。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は、(1)非局所的な粘弾性および(2)非局所的な弾塑性という2つの柱を念頭に研究を進め、一般化した構成則を取り入れた新しい連続体理論の構築へと繋げていく。そのために、まずは降伏する高密度粒子系のアバランチ現象と、非局所性を担うプロパゲーターの役割を解明する。研究方法として分子動力学法による数値シミュレーションを採用するが、定常状態におけるプロパゲーターの定式化と、それを数値計算で直接測定する手段が課題である。また、ジャミング転移密度の上下それぞれの特性を理解することも重要で、液相においては粘性率の波数依存性から、固相においては塑性歪みの伝搬を担うグリーン関数の形から、非局所性とジャミング転移との関係を明らかにする予定である。さらに、本年度は粒子の慣性を無視したモデルに限定していたが、今後は慣性の効果も取り入れ、定常状態におけるせん断率と密度に対する依存性をより詳細に調べる必要がある。また、非ファイン速度の縦成分と横成分それぞれの動的構造因子を計算することで、局所的なジャミング(あるいはシェアジャミング)の可能性を追究し、通常の液体と非熱的な粒子系の根本的な違いについても議論を続ける予定である。
|